「婚姻費用」は、別居から離婚が成立するまでの間、一方配偶者や子の生活費に関わる問題です。「婚姻費用」について問題となる点を整理すると以下のとおりです。
婚姻費用とは
「婚姻費用」とは、婚姻共同生活の維持を支える費用です。生活費と言い換えてもいいかもしれません。
配偶者の収入・財産に応じた生活水準が必要とする生計費・交際費・医療費等の日常的な支出や、配偶者間の子の養育費・学費・出産費等を含む、婚姻から生ずる費用を指します。
夫婦が別居に至った場合も、婚姻生活は継続しているので、各自の生活費や子どもの養育費は婚姻費用として分担すべきことになります。
したがって、実際に婚姻費用の分担が問題となってくるのは、主に別居状態になった場合です。
「婚姻費用」の支払義務の有無や支払金額は、当事者双方にとって今後の生活状況にも直結する重要な問題です。婚姻費用の内容次第で別居後の生活も大きく変わってきますので、安易に決めず、十分に検討する必要があります。
婚姻費用の支払義務
婚姻費用請求権の発生時期
「婚姻費用」の分担は、過去に遡って請求することができます(最大決昭40.6.30民集19巻4号1114頁)。そこで、具体的にいつの時期から婚姻費用を請求することができるかが問題となります。
「婚姻費用請求権」の始期は、裁判所の合理的な裁量によって決まっていますが、裁判例等を見ると、概ね以下のように整理できます。
- 別居時
- 請求時①(調停や審判の申立前に、当事者間で請求していたことが証明できる場合はこの請求時)
- 請求時②(上記の証明ができない場合は、調停や審判の申立時)
したがって、婚姻費用分担請求調停を申し立てた時からしか請求できない、というわけではありませんので注意しましょう。
婚姻費用の終期
「婚姻費用請求権」の終期は、「別居の解消、または離婚に至るまで」とすることが一般的です。調停や審判でもこの条項を入れることが通常です。
もっとも、将来事情が変わる可能性が高い場合には、終期を一定期間経過後に明記する例もあります。
事実関係によって変わる場合も
「婚姻費用分担請求権」は、いつからいつまで認められるのかは、具体的な事実関係によって変わる場合もあります。個別の事案に応じて、変わる余地がないか、十分に検討しましょう。
婚姻費用分担請求に対する反論
婚姻費用の支払義務の不存在
「婚姻費用分担請求」は、別居に至った時点で請求することが可能になります。原則として、別居に至った事情にかかわらず、収入が少ない権利者は、収入が高い義務者に対する「婚姻費用分担請求権」を主張することができます。
義務者が支払いに応じない場合には、調停や審判を申し立てることで債務名義を取得し、差押等の手続をとることも可能です。
「婚姻費用分担請求権」は、権利者からすれば、別居するだけで義務者に請求することが可能となる、強力な権利ということができます。
ですが、「浮気相手と一緒になりたい」などという理由で別居に至った場合などは、権利の濫用として認められないか、減額されることがあります。
婚姻費用分担請求が問題となっている事例では、別居にあたり、権利濫用に該当するような事情があるかどうかを検討する必要があります。
裁判例
- 東京家裁平成20年7月31日審判、東京高判昭和58年12月16日ほか
別居の原因が妻の不貞行為にあるときは、妻からの婚姻費用分担請求は、権利の濫用として認められないという裁判例があります。
基礎収入の考慮
婚姻費用分担請求が調停等で決まったとしても、権利者の収入が大幅に下がったり、義務者の収入が上がったりした等、その後に事情の変動があれば、再度婚姻費用減額調停を申し立て、婚姻費用の見直しを求めることも可能です。
したがって、婚姻費用分担請求を受けた側としては、安易に婚姻費用分担請求をそのまま受け入れるべきではなく、相手方の請求が本当に妥当なのかどうかを十分に検討する必要があります。