【コラム】婚姻中でも別居後に新たに恋人をつくることは法的に大丈夫なの?(別居後の不貞行為と婚姻関係破綻の主張について)

1 別居後の不貞行為

本論考では、婚姻関係にある当事者の関係が悪化し、別居後に当事者の一方が第三者と性交渉を持ち不貞行為に及んだ場合、慰謝料請求が認められるのかという問題を論じます。

例えば、夫と妻が話合いにより別居した後、夫が会社の後輩の女性と性交渉を持った場合等です。

妻としては、二人の関係を修復するために距離を置いただけであり、離婚する意思がなく、婚姻関係が続いていることから、夫及び会社の後輩の女性に対して慰謝料を請求したいと考えます。

他方、夫としては、二人の夫婦関係は冷めきっており、喧嘩が絶えずに別居したことから、婚姻関係が破綻し、夫婦としての実態が何らないため、不貞行為にならず、慰謝料を支払う必要がないと考えます。

このような夫と妻の主張を実際の裁判例を通じて検討します。

2 裁判例の検討

本件問題に関連する裁判例の内容を抜粋し、解説します。

(1)東京地裁平成27年(ワ)第27856号

判決文の概要

原告は、配偶者と離婚する意思はなく、配偶者が戻ってくることを切望しており、原告と配偶者は、別居後も、例えば、平成26年4月7日にディズニーランドに行ったり、離婚訴訟提起後の同年9月に配偶者が原告の自宅に行くなど、複数回会っていたことが認められる。したがって、原告と配偶者の婚姻関係が破綻しているとは認められない。

解説

当該判決は、別居後、離婚調停、離婚訴訟で当事者間の婚姻関係が破綻していることを争っていても、当事者間でレジャー施設に遊びに行く、自宅に来る等で複数回会っている場合には、婚姻関係が破綻したとまでは認められないと判断しています。

したがって、離婚調停、離婚訴訟継続中であっても、婚姻関係が破綻しているから、恋人をつくって性交渉を持ってもよいだろうと安易に考えず、慎重に行動すべきです。

(2)東京地裁平成30年(ワ)第30826号

判決文の抜粋

 配偶者が別居前に原告と離婚したい意向を有しており、そのことを被告にも伝えていたこと、配偶者が別居開始後間もなく、原告からの連絡を一切拒絶する態度を示したこと、配偶者が原告の経済力に不安を抱いており、結婚生活面での価値観の違いも生じていることが原告との婚姻生活の維持に困難を感じる理由になっていたこと、配偶者が別居の前後に原告に対し、今の二人がまるで「同居人」のようだという趣旨の冷めた言葉を伝えていたこと、平成28年1月31日の家族会議の後も、配偶者が原告の自宅に戻ったことは結局一度もなかったことに照らすと、少なくとも別居開始時点での原告と配偶者の婚姻生活が必ずしも円満なものではなかったことや、別居後も配偶者の原告と離婚したいとの意向が一貫して変わらなかったことは否定できない。

 しかし、本件の証拠関係から被告の不貞行為が具体的に推認できる同月20日ないし同月25日の時点では、配偶者が別居に踏み切ってからまだ2か月程度しか経過していなかったこと、原告自身は離婚に反対する意思を当初から明言しており、配偶者との関係修復への意欲を有していたことが窺われるし、配偶者自身も、原告のことが好きな気持ち自体を失ったわけではないと述べていること、別居前の原告と配偶者との間で、二人の関係悪化につながる特別な出来事があったわけではなく、配偶者が後半の家族会議で述べていた原告との離婚を希望したい理由も、やや抽象的な表現の域にとどまっており、二人でしっかり話し合う場を持つことができれば、婚姻関係の修復に向かう可能性も皆無ではなかったことに鑑みると、原告と配偶者の婚姻関係が決定的に破綻していたとまで認めるに足りる証拠はないというべきである

解説

当該判決は、①別居前に離婚したい意思があること、②別居後も離婚したい意思が変わらなかったこと、③別居後、連絡を一切拒絶する態度をとったこと、④経済面、生活面で価値観の違いがあること、⑤夫婦関係が冷え切った発言をしていること、⑥別居後、一度も自宅に戻らなかったという理由があっても「婚姻関係が破綻」でではなく、「円満ではなかった」という文言で表現しています。

そのような表現理由は、破綻を認めないという結論が前提であり、その理由としては、①別居期間が2ヶ月程度、②他方配偶者が離婚に反対し、関係修復の意思があること、③配偶者は、まだ原告が好きだという気持ちがあること、④関係悪化の特別事情があったものではないこと、④離婚理由が抽象的理由にとどまること、⑤協議の場をもてば関係修復の可能性があるという理由です。

当職は、上記判示には違和感があり、別居の実情、心情を的確に捉えているとは考えられません。

そもそも、他方配偶者が好きでまだ離婚したくないんだと言えばいいのでしょうか。好きでも一緒にいられないから別れるという考えもあります。夫婦関係が悪化する特別な事情があること自体が珍しく、日々の小さな積み重ねであり、離婚理由が性格の不一致等で抽象的にならざるをえません。二人でしっかり話し合う場をもてとは、話合いにならないから裁判になっているのでしょうと判決理由には様々な疑問を感じます。

(3)東京地裁令和2年(ワ)第1468号

判決文の抜粋

 配偶者は原告との婚姻当初から不貞を重ね、平成28年3月には原告に対して暴力を振るうなどした上、平成28年秋頃にも複数の相手と不貞を繰り返したため、原告がストレスで体調を崩すようになり、原告と配偶者とが別居するに至ったのであるから、被告が配偶者と交際を開始した平成30年3月頃の時点において、原告と配偶者との婚姻関係は破綻の危機に瀕していたものと認めるのが相当である。

 もっとも、上記別居開始から上記交際開始まで約1年しか経過していないこと、別居開始後も、家族の交流の機会が頻繁に持たれていた上、その際、原告と配偶者は親しげな電子メールのやり取りをしていたこと、別居開始後、原告及び配偶者のいずれにおいても、離婚に向けた具体的な行動がとられた形跡がないことからすれば、被告が配偶者と交際を開始した平成30年3月頃の時点では、原告と配偶者の婚姻関係が修復不可能な程度に破綻していたとまで認めることはできない。

解説

当該判決は、①配偶者が婚姻当初から複数の者と不貞関係を続けてきたこと、②他方配偶者が上記①が原因で体調を崩し、別居に至ったにもかかわらず、「婚姻関係は破綻の危機」と評価し、「破綻していた」とは認めませんでした。

そのような表現理由は、破綻を認めないという結論が前提であり、その理由としては、①別居後、交際開始まで1年のみの期間であること、②別居後も家族間の交流があったこと、③メールで親しげなやり取りをしていたこと、④離婚に向けて具体的な協議、裁判等がなかったことを理由としています。

婚姻期間中に複数の者と不貞をしていたという事実は、婚姻関係が破綻していたことを基礎づける重要な事実と考えられますが、あくまで、裁判所の評価としては、破綻ではなく、婚姻関係が破綻の危機に瀕していたという評価にとどまります。

また、本件では、別居後、具体的に離婚の話を進める行動に出ていなかった事実を婚姻関係が破綻していない理由の一つとしています。

通常、婚姻関係が破綻しているならば、当事者間の婚姻関係を解消するため離婚に向けて具体的な行動があるものだという経験則の価値観が根底にあると考えられるため、確かに、離婚に向けて何ら協議していない状況では、家族間で交流していた事実もふまえると、婚姻関係が破綻していたとは考え難いでしょう。

3 結語

以上をふまえると、婚姻期間中に別居した場合でもあっても、新たに恋人と付き合い、性的関係を持つことは、避けたほうが無難です。

しかしながら、別居後、新たに好きな人ができたので、付き合いたいけれど、どうすればよいかというご相談をお受けすることが多々あります。

本論考の結論では、上記裁判例を通じて検討した結果として以下の対応が考えられます。

①弁護士を選任し、離婚する意思を明確にした通知書の発送、②当然、弁護士が代理人に就任するので、当事者間の連絡は弁護士を通じてしかできないこと(別居後にも親しげな関係性を続けていることが婚姻関係が破綻していないことを基礎づける事実になるため、本人同士の直接の連絡は遮断します。)、③離婚協議の実践、④離婚調停の申立を行うということが最低限お伝えする対応方針となります。

当職は、実際にご相談者様に対して、具体的な実情(いつから付き合えますか等)をふまえてリーガル・カウンセリングを実施していますので、ぜひご相談ください。

執筆

弁護士 斉藤 雄祐(茨城県弁護士会所属) 弁護士 斉藤 雄祐(茨城県弁護士会所属)

 

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