はじめに
本稿では、夫婦間や親子間などで行われる性的虐待に関する問題を取り上げ、被害を受けている方のために知っていただきたい情報をまとめています。たとえ夫婦や家族であっても、相手の同意なく性的な行為を強要することは犯罪行為であり、強制わいせつ罪や強制性交等罪にあたる場合があります。また、近年では子どもを対象とする性的虐待の事件も報道されており、被害者の心身への影響は計り知れません。被害を受けた方や、その可能性がある方には、一刻も早く安全を確保し、専門家の力を借りて解決に向かうことが何より大切です。
本稿では、性的虐待にまつわる基礎的な知識や、具体的な被害例、そして早期に弁護士へ相談するメリットについて詳しく解説いたします。ご自身や大切な方が性的虐待の被害を受けているかもしれないと感じたら、まずは本稿をお読みいただき、そのうえで必要な措置を検討してください。被害を一人で抱え込むのではなく、周囲の支援を得ながら解決へ向かうことが重要です。
Q&A
ここでは、性的虐待に関してよく寄せられる質問をQ&A形式でまとめてみました。まずは基礎的なところを押さえていただくことで、被害を受けているかどうか、どのように対応すべきかの判断材料にしていただければ幸いです。
Q1:夫婦間でも性的な行為を拒否できますか?
はい、もちろん拒否できます。たとえ夫婦であっても、配偶者に同意なく性的行為を強要することは犯罪となる可能性があります。具体的には、暴行や脅迫をともなう場合は「不同意性交等罪」あるいは「不同意わいせつ罪」に該当する可能性があります。結婚しているからといって、配偶者の性的要求に必ず応じなければならないわけではありません。
Q2:性的虐待の対象には、子どもも含まれるのでしょうか?
残念ながら、そのとおりです。近年では、父親が子どもに対して性的虐待をはたらく事件も報道されています。子どもが被害を訴えても、「しつけ」「親子だから仕方ない」として大人が取り合わないケースもあるようです。しかし、これは明らかに違法かつ重大な人権侵害であり、子どもの健全な成長を大きく妨げる行為です。
Q3:幼少期の性的虐待による影響はどのようなものがありますか?
性的虐待を受けたことによる心身のトラウマは被害者の人生全般に影響を及ぼす可能性があります。国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センターの研究によれば、幼少期に性的虐待を受けた女性患者の中にはPTSDを発症し、その結果、認知機能の低下がみられるケースがあると報告されています。また、人間関係の構築が難しくなったり、自尊感情が低下したりするなど、被害後も長期的な苦しみを抱える例は少なくありません。
Q4:どのような行為が性的虐待にあたりますか?
具体的な行為としては、以下のようなものが挙げられます。
- 配偶者やパートナーに性的行為を強要する
- 同意を得ずに性交渉やわいせつ行為を行う
- 性交渉を拒むと暴力や脅迫などの制裁を行う
- 避妊をさせない、あるいは無理やり妊娠をさせる・妊娠中絶を強要する
- 異常な嫉妬に基づく監視、束縛を行い、性的な自由を奪う
- 親が子どもにわいせつ行為を行う
これらはいずれも「夫婦だから」「親子だから」という理由で正当化されるものではなく、刑法上の犯罪に該当する可能性があります。
Q5:性的虐待を受けていると感じた場合、どのように対処すればよいでしょうか?
まずは安全の確保が最優先です。身近に頼れる人がいれば、その人に現状を話し、逃げ場所を確保するなどの支援を求めてください。もし適切な相談先が見つからない場合でも、自治体の相談窓口や弁護士への相談など、多くの支援策が用意されています。性的虐待は、身体的・精神的被害が大きく長期にわたることも多いため、一刻も早い行動が必要です。
解説
ここからは、より詳しく性的虐待が抱える問題と、その背景、そして法的な位置づけについて解説していきます。実際には被害者ごとに状況が異なるため、「もしかしたら自分も……」と感じた方は、ぜひ早めに専門家の力を借りてください。
1.夫婦間における性的虐待の深刻さ
「夫婦だから」「結婚しているから」という理由で、相手の抵抗を無視して性交渉を強要するケースは少なくありません。しかし、法的には明確な犯罪となる可能性があります。夫婦間であっても、同意のない性交渉は強制性交等罪、同意のないわいせつ行為は強制わいせつ罪に該当し得るのです。また、「避妊をしないよう強制する」「中絶を勝手に決める」などの行為も、相手の身体を尊重しない重大な違法行為となり得ます。
夫婦間の問題は家庭内で起こることが多いため、外部からは気づかれにくいという特徴があります。被害者が「夫婦のことだから……」と我慢を続けてしまうと、問題が長期化し、やがて身体的・精神的なダメージは回復困難なレベルにまで進行する危険もあるでしょう。
2.子どもを巻き込む性的虐待の危険性
親が子どもに対して性的虐待を行う例も残念ながら後を絶ちません。幼い子どもは、自分が置かれている状況を客観的に把握したり、周囲に助けを求めたりすることが難しく、深刻な被害を負うことになります。特に加害者が父親の場合、家庭内での力関係は圧倒的に父親が上であるため、子どもは逃げ場がありません。
さらに、幼少期の性的虐待は心身の成長期に大きな悪影響を及ぼします。前述した研究でも示されているとおり、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の発症リスクが高まるだけでなく、その後の認知機能の低下がみられる場合があります。学校生活や社会生活においても大きな支障が出る可能性があるため、「まさかうちの家庭に限って……」という思い込みは捨て、子どもの言動がおかしいと感じたら、まずは専門機関へ相談するなど、早期対応が大切です。
3.不同意わいせつ罪・不同意性交等罪の適用範囲
性的虐待行為には、刑法が規定する不同意わいせつ罪や不同意性交等罪が適用される可能性があります。たとえば、暴行や脅迫を伴ってわいせつな行為を行えば不同意わいせつ罪、性交やオーラルセックスなどを強要すれば不同意性交等罪が成立する可能性があるのです。これらの罪は親子や夫婦といった関係にかかわらず、成立し得ます。「家族間の問題だから警察が介入できない」ということは決してありません。
4.離婚問題に発展するケース
夫婦間の性的虐待が原因で、離婚を検討せざるを得なくなることもあります。性的虐待は明らかな違法行為ですから、裁判所での離婚調停や離婚訴訟においても重要な争点となります。配偶者からの性的暴力を理由に離婚を請求する場合は、暴力の証拠や診断書、日記やメモなどの記録が有力な証拠となるため、日頃から可能な範囲で被害状況を記録しておくとよいでしょう。また、子どもに対する虐待が疑われる場合には、親権や養育権に関しても慎重な検討が必要です。
弁護士に相談するメリット
性的虐待の被害を受けた方は、精神的なショックが大きく、自力で問題解決へ向かうのが困難なことが多いと思われます。そこで、まずは弁護士に相談することを強くおすすめします。とりわけ、離婚問題やDV・児童虐待問題に精通した弁護士に頼ることで、以下のようなメリットが期待できます。
- 法律的なアドバイスが得られる
夫婦間の問題なのか、親子間なのか、あるいは同居人による被害なのかによって法的対応が異なります。弁護士であれば、刑事告訴が可能かどうか、どのような手続で離婚を進めるべきかなど、個別の状況に応じた助言を得ることができます。 - 証拠集めのサポート
性的虐待の被害者は、加害者と日常的に接している状態で証拠を集めるのが難しいケースもあります。弁護士は必要な証拠の種類を的確に把握し、どのように収集すればよいかを具体的にアドバイスできます。 - 精神的負担の軽減
被害者が直接加害者と交渉することは、心理的に大きな負担となります。弁護士に依頼することで、代理人として弁護士が窓口となり交渉を行うため、被害者は極力加害者と対峙しなくて済みます。とくに裁判所での手続きが必要な場合、弁護士が間に入ることは大きな安心につながります。 - 離婚後の生活設計や子どもの保護を考慮した対応
子どもがいる場合、親権をどちらが持つか、養育費はどうするかなど、離婚後の生活設計も重要です。性的虐待の事案であれば、親権者の選定において虐待事実の有無が判断材料となる場合があります。弁護士はこうした子どもの保護に関わる手続きについても支援し、適切なアドバイスを行います。
まとめ
性的虐待は「夫婦間だから」「家族間だから」という理由で正当化されるものではありません。被害者の心身に重大なダメージを与える犯罪行為であり、とりわけ子どもが被害者になると、その後の人生に甚大な影響が及ぶ可能性が高いです。もしも「おかしい」「怖い」と感じたら、それがすでに助けを求めるタイミングであるといえます。性に関する問題は他人に相談しにくいと思われるかもしれませんが、いままさに困難を抱えている方こそ、早い段階での専門家の力が必要です。
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