離婚にともなう財産関係の精算では,財産分与が問題となります。
以下では,財産分与と税金の問題を解説いたします。
1 夫から財産をもらったら税金が発生するのか
【質問】
夫から現金1000万円をもらったのですが,夫婦間でもお金のやりとりがあると税金が発生するのでしょうか。
【回答】
夫婦間であっても贈与税が発生します。
【解説】
夫婦間であっても,夫から妻に財産が渡された場合,妻には贈与税が発生します。
贈与税は,(贈与を受けた財産の合計額)−(基礎控除額110万円)=課税価格 として計算されます。
2 財産分与をもらったら税金が発生するのか
【質問】
私は夫と離婚するときに,財産分与として300万円を支払ってもらうことになりました。
この財産分与300万円に税金は発生するのでしょうか。
【回答】
財産分与に対しては,原則として課税されないため,税金は発生しないことになります。
【解説】
財産分与によって相手方から財産をもらった場合、通常は贈与税がかかることはありません。
これは、相手方から贈与を受けたものではなく、夫婦の財産関係の清算や離婚後の生活保障のための財産分与請求権に基づき給付を受けたものと考えられるためです。
また,財産分与の本質は,夫婦が婚姻生活中に協力して築いた財産の精算であることからしても,財産分与を受けたものには所得税も課されないとされています。
したがって,財産分与に対しては,原則として課税されないことになります。
3 財産分与に対して税金が発生する場合
【質問】
夫と離婚する際,財産分与として1億円を支払ってもらうことになりました。
財産分与に対しては課税されないと聞いたのですが,この場合でも大丈夫でしょうか。
【回答】
財産分与に対しては原則として課税されませんが,相当な範囲を超えたと認められる場合には課税されることになります。
財産分与として1億円ももらった場合には,課税されるリスクを考える必要があります。
【解説】
財産分与については原則として非課税とされていますが,以下の場合には贈与税が課せられることになります(相基通9-8,所基通33-1の4)。
1 分与された財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額やその他すべての事情を考慮してもなお多過ぎる場合
→ その多過ぎる部分に贈与税がかかる
2 離婚が贈与税や相続税を免れるために行われたと認められる場合
→ 離婚によってもらった財産すべてに贈与税がかかる
ご質問のケースでは,夫婦の共有財産が1億円ちょうどしかないにもかかわらず,妻にだけ1億円全額渡すような場合には,課税されることは想定すべきでしょう。
4 財産分与として不動産を譲渡する場合の注意点
【質問】
妻と離婚するにあたり,財産分与として自宅の土地建物を譲渡することにしました。
このとき,税金はどのような扱いになるのでしょうか。
【回答】
財産分与として自宅などの不動産を譲渡する場合,財産分与を支払う側には譲渡所得税が,財産分与をもらう側には不動産取得税,登録免許税が課される可能性があるため,注意が必要です。
【解説】
1 財産分与を支払う側
財産分与を不動産で行う場合には,財産分与を支払う側に譲渡所得税が課される可能性があります。
最高裁判所は,離婚に伴う財産分与にあたり,不動産の所有権を移転する際には,譲渡所得税の対象になることを肯定しています(最判昭和50年5月27日)。
同判例によれば,金銭以外の資産によって財産分与を行った場合,財産分与を支払う側には譲渡所得税が課されることになります。
そして,譲渡所得税は,以下のように計算されます。
譲渡所得=分与時における不動産の時価(実勢価格・市場価格)−(取得費+譲渡費用)
したがって,不動産が購入したときの価格(取得費)より値下がりしている場合には,譲渡所得は発生しないので,課税されないことになります。
2 財産分与をもらう側
不動産を取得した場合には,所得者には不動産取得税が課されることになります。
もっとも,不動産が婚姻後に取得されたものであり,夫婦共有財産の精算のために行われた財産分与の場合には,不動産取得税が減免される可能性があります。
また,不動産取得税が課される場合にも,いくつかの軽減措置を利用できることがあります。
このほかに,不動産の所有権移転登記に際して登録免許税が発生します。
5 譲渡所得税と財産分与の錯誤無効
【質問】
離婚にあたって妻に財産分与として自宅の土地建物をあげましたが,その後に高額な譲渡所得税が課税されることになりました。
まさか,こんな高額な税金を納めなければならないのだったら,妻には自宅をあげるつもりはありませんでした。
財産分与をやり直すことはできないのでしょうか。
【回答】
一旦財産分与をしてしまった以上,後で取り消すことができないことが原則ですが,例外的に,税金の負担があることを知っていればこのような財産分与はしなかったという動機の錯誤が認められれば,財産分与を無効にすることができます。
【解説】
不動産を財産分与した場合,財産分与を支払った側には譲渡所得税が課されることが実務上確立しています。
もっとも,実際に財産分与の取り決めを行う離婚の当事者が,税務上の取り扱いを熟知しているとは限りません。
そこで,財産分与を支払う側が,自分に譲渡所得税が課されることを知らずに不動産を財産分与した場合,後日譲渡所得税の負担があることを知っていれば財産分与はしなかったとして,錯誤無効を主張した場合,認められることがあります(東京地判平成3年7月19日ほか)。