【経営者特有の財産調査の問題】
1 財産分与の対象財産
財産分与の対象財産は,以下のようなものが挙げられます。
① 預貯金・現金
② 保険金(生命保険,学資保険等)
③ 有価証券(株式,投資信託商品等)
④ 動産(絵画,貴金属等)
⑤ 自動車
⑥ 不動産(土地/建物)
⑦ 退職金
これらが財産分与の対象となることは,サラリーマンのケースであっても,経営者のケースであっても変わりません。
問題は,経営者のケースでは,サラリーマン世帯の方以上に高額の資産を有していることが多い上,会社に資産を分散していることもあり,これらの資産を正確に調査することが重要となってくるということです。
また,事業の運転資金をどこから調達したのか,という点も重要です。もともと相手方が用意したお金から工面したのかどうかによっても,財産分与の対象に含まれるかどうかが変わってきます。
2 財産調査の方法
上記①〜⑦の財産について,それぞれの調査方法及び注意していただきたい点をご説明します。
① 預貯金・現金
預貯金の評価額は,別居時の残高になります。
預貯金の残高を確認するために,通帳を持っている方から,残高証明や通帳の写しを出してもらうことが理想的です。
ですが,実際には出してもらうことができないことも少なくありません。
このような場合,弁護士が交渉して説得することも一つの方法です。
また,裁判所を通じて,金融機関に対する「調査嘱託の申立」を行うことも有効な方法です。
② 保険金(生命保険,学資保険等)
保険金等は,解約返戻金が財産分与対象財産となります。
そこで,解約返戻金を調査する必要があります。
具体的には,保険証書等の写しをもとに,保険会社に対する「調査嘱託の申立」をすることで調査することが考えられます。
③ 有価証券(株式,投資信託商品等)
株式の調査方法についても,基本的には②と同様です。
④ 動産(絵画,貴金属等)
動産は,一般的にはそれほど価値がなく,財産分与の対象としてあえて取り上げる必要がないことが多いと言えます。
もっとも,経営者が当事者の場合,絵画や貴金属等の効果品が財産に含まれている場合があります。
このような場合には,これら動産の評価額だけでなく,購入原資は夫婦のどちらから出たのかも確認する必要があります。
⑤ 自動車
自動車についても,通常であればそれほどの残存価値が残っていないことが多いと言えます。
もっとも,経営者が当事者の場合,高級車(外国製等)を所有していることも少なくありません。
この場合,自動車の所有名義人がだれなのか(法人名義になっていないか),車検証を取り寄せて調査する必要があります。
⑥ 不動産(土地/建物)
経営者が当事者の場合,多数の不動産を所有しているものの各地に分散しているために,すべてを把握することができないという事態も生じ得ます。
このような場合には,「名寄帳」を調べたり,固定資産納税通知書を確認したりすることが有効です。
⑦ 退職金
経営者の場合,退職金が支給されることはないと誤解されている方もいらっしゃるかもしれません。
ですが,経営者であっても,所定の手続きを踏まえれば退職金を受領することが可能です。
そして,利益が上がっている経営が順調な会社では,節税対策等として退職金を支給することも珍しくありません。
経営が順調なケースこそ,退職金を見過ごしてはならないと言えます。
退職金が支給されるかどうかも含めて調査するためには,就業規則等を取り寄せることが有効です。
このように,当事者が経営者の場合,通常のサラリーマン世帯の場合よりも多額な資産が見込まれる分,より慎重かつ正確な調査が求められます。
そこで,離婚問題,特に財産分与を得意とする弁護士にご相談されることをおすすめします。