年金分割の基本的な仕組み
公的年金
公的年金とは、政府が保険者となり、国民が被保険者として実施している年金を言います。公的年金は、以下の3つに分類できます。
- 国民年金
日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の人を被保険者とし、基礎年金としてすべての国民が加入する年金です。
- 厚生年金
厚生年金保険法に規定される「適用事業所」に使用される70歳未満の者を被保険者とする年金です。
- 共済年金
国家公務員、地方公務員及び私立学校教職員については、それぞれの共済組合によって厚生年金と同様の年金給付を行っています。
年金分割制度
年金分割制度とは、公的年金のうち、厚生年金と共済年金につき、年金額を算出する基礎となっている保険料納付実績を分割し、分割を受けた者に保険事故が発生した場合(年金受給年齢に達した場合等)、分割後の保険料納付実績に基づいて算定された額の年金受給権が、当該分割を受けた者自身に発生するという制度です。
手続上は、離婚等がなされた場合に、夫婦であった者の一方の請求により、厚生労働大臣が当該離婚等について婚姻期間その他の厚生労働省令で定める対象期間に係る被保険者期間の標準報酬の改定等の処分を行う方法によってなされます。
なお、国民年金や、厚生年金基金・国民年金基金等は分割の対象となりません。これらについては、財産分与の対象として処理することになります。
年金分割制度の種類
年金分割制度には、合意分割と3号分割の2種類があります。
- 合意分割
夫と妻が、分割することと、その分割割合(これを「按分割合」と言います。)について合意していれば、離婚時に限り、婚姻期間の保険料納付実績を按分割合の最大限度を2分の1として分割できるという制度です。
夫婦の間で合意ができない場合には、夫婦の一方が裁判所に申立をして、裁判所で按分の割合を決定することもできます。
なお、合意分割は「2号分割」や「離婚分割」と呼ばれることもあります。
- 3号分割
平成20年4月以降に、配偶者の一方が第3号被保険者であった期間(=特定期間)について、他方配偶者の保険料納付実績の1/2を自動的に分割できる制度です。
合意分割とは異なり、夫婦間での合意の必要はなく、請求すれば、当然に1/2の割合で分割されることになります。
依頼者と相手方の年金の調査方法
離婚を検討するに際しては、離婚時年金分割を行うのか、行うとして按分割合をどのように定めるのかを判断するため、当事者双方の年金額がいくらあるのか、年金の加入状況はどのようになっているのか等の情報を収集することが重要です。
そこで、厚生年金保険法においては、夫婦であった者の双方又は一方の請求により、厚生労働大臣が標準報酬改定請求を行うために必要な情報を提供する制度が設けられています。
同様に、国家公務員共済組合法及び地方公務員等共済組合法においては各々の組合が、私立学校教職員共済法においては事業団が情報提供する制度が設けられています。
合意分割
合意分割を行う手続き
- 当事者間の話し合いによる場合
当事者間の話し合いによって合意分割を行うためには、夫と妻の間で決定した按分割合を定めた書面(公正証書等)を作成する必要があります。
書類の作成が必要となる理由は、法律上分割の請求をするにあたり、書面を添付する必要があるからです。
- 当事者間の話し合いによらない場合
当事者間の話し合いでは合意できなかった場合や、話し合い自体ができない場合には、一方の当事者が家庭裁判所に申立をしてその割合を定めることができます。
家庭裁判所における手続としては、調停、審判、離婚訴訟の3つがあります。
- 厚生労働大臣に対する標準報酬改定請求
上記いずれかの手続を行った後、夫婦であった者の一方は、厚生労働大臣に対して、標準報酬改定請求をする必要があります。
実際には、所定の請求書に必要事項を記載し、請求する側の現住所を担当することになっている年金事務所を通して社会保険庁に提出することになります。
合意分割の按分割合
按分割合は一定の範囲で自由に定めることができますが、上限は2分の1とされています。
一方、按分割合の下限は、分割前の第2号改定者の対象期間標準報酬総額を分割前の当事者双方の対象期間標準報酬総額の合計額で除した額となります。
なお、この按分割合の上限及び下限は、「年金分割のための情報通知書」に記載されています。
3号分割を行う手続き
3号分割の場合、当事者間の合意は不要となります。したがって、すぐに標準報酬改定請求を行うことになります。
そして、この場合も、合意分割の場合と同様に、原則として離婚等の翌日から数えて2年以内に請求を行う必要がありますので、ご注意下さい。
合意分割と3号分割との関係
平成20年4月1日以降に関しては、合意分割と3号分割が併存することになります。そこで、両者の関係が問題となりますが、その点については、以下のように考えられています。
3号分割の分割請求を行った場合
3号分割の請求のみがなされた場合には、対象となる平成20年4月1日以降の特定期間についてのみ年金分割が行われることになります。
平成20年3月31日以前の対象期間を含めて合意分割の請求を行った場合
この場合には、合意分割の請求と同時に3号分割の請求もあったものとされます。
したがって、まず平成20年4月1日以後の特定期間につき3号分割が行われ、その後、平成20年3月31日以前の期間につき合意分割が行われることになります。