はじめに
離婚をした後になってから、「もっとしっかり財産分与をしておけばよかった」「実は相手方が持っている財産について、十分に話し合いができていなかった」というご相談は少なくありません。離婚当時は感情的になってしまい、あるいは時間や費用をかけたくないという思いから、十分に協議できずに離婚に至ってしまう方も多いでしょう。
しかし、離婚後に新たな財産が判明したり、当初の合意が不十分だったりして、「本当にこれで終わりでいいのか」と再検討したいと思うケースは数多くあります。本稿では、離婚後に財産分与の内容を見直すことは可能なのか、法的なポイントや手続き、また弁護士に相談するメリットなどを解説いたします。実際にご相談される前に、本記事を通じて基本的な知識を身につけ、ご自身のケースに当てはめながら検討してみてください。
本記事は、離婚問題に数多く携わってきた弁護士法人長瀬総合法律事務所が作成しております。離婚問題は当事者にとって極めて重要な問題であり、正しい知識をもとに慎重に判断する必要がありますので、ぜひ最後までご覧いただき、不明点や不安な点があれば専門家へのご相談を検討していただければ幸いです。
Q&A
Q1. 離婚後に財産分与の条件を変更できますか?
A1. 原則として、「離婚後2年以内」であれば財産分与の請求をすることが可能とされています。ただし、「財産分与の請求権を放棄する」旨の合意を離婚時にしていた場合や、すでに協議離婚書や調停調書などで財産分与を終えたと明確に定められている場合は、後から請求するのが難しくなる可能性があります。
Q2. なぜ「2年以内」という期限があるのですか?
A2. 日本の民法は、財産分与の請求に関する時効として「離婚のときから2年」が定められています。これは、離婚後にいつまでも財産分与の問題が続いてしまうと、当事者同士の生活が落ち着かず社会秩序も乱れるという考え方に基づいています。そのため、離婚から時間が経ちすぎると請求が認められなくなるおそれがあります。
Q3. 離婚の際に「財産分与は一切請求しない」と合意してしまった場合でも、やり直しはできますか?
A3. 一般的には、「財産分与請求権の放棄」に関する明確な合意書がある場合、後から財産分与を請求するのは非常に難しくなります。ただし、夫婦間の力関係の偏りや脅迫・詐欺などでやむを得ず合意させられたようなケースや、合意の前提が著しく崩れたような特別な事情がある場合には、放棄合意自体が無効または取り消し可能となる可能性もあります。具体的には個々の事例によるため、専門家に相談して事実関係を精査することが大切です。
Q4. 離婚後に相手の名義の不動産が見つかった場合、どのように対処すればいいのでしょうか?
A4. 離婚後すぐに気づいたのであれば、2年以内に財産分与の請求を行うことが可能です。まずは話し合い(協議)で解決を図るのが一般的ですが、話し合いが決裂したり、そもそも話し合いに応じてくれなかったりする場合は、調停を申し立てる選択肢もあります。不動産の登記情報などを調べ、所有関係や財産形成の経緯を明らかにして、専門家に相談しながら対応するとよいでしょう。
Q5. すでに財産分与に関する調停が成立したのですが、その後、新たな財産が発覚しました。再度調停を申し立てることは可能でしょうか?
A5. 一度調停や審判などで財産分与が確定している場合、再度の調停申立が認められるかどうかは非常に難しい問題です。新たに見つかった財産が「当初は存在が知られていなかった」「隠されていた」など、特別な事情がある場合は、再度の請求の可能性もゼロではありません。ただし、その合意がどこまで包括的であったか、また財産分与の放棄に準ずる内容になっていないかなどによっても結論が変わるため、詳細は弁護士に相談して個別に検討する必要があります。
解説
1. 財産分与請求権の法的根拠
離婚後の財産分与は、日本の民法第768条(協議上の離婚における財産分与)などに規定されています。ここでは、主に以下の3つの性質があるとされています。
- 清算的財産分与
結婚生活中に夫婦で協力して築いた財産を清算する目的の財産分与です。婚姻期間中に得た財産が対象となり、基本的には二分の一ずつ分けるのが原則とされていますが、個別事情によって配分は異なる場合があります。 - 扶養的財産分与
離婚後、経済的に困窮する可能性が高い一方が、一定期間の生活を維持できるように扶養を目的とする財産分与です。 - 慰謝料的財産分与
離婚に至った原因(不貞や暴力など)により一方が精神的苦痛を被った場合、慰謝料の趣旨として財産分与を認めることがあります。ただし、慰謝料は別途請求することが多いのが現実です。
上記いずれか、または複数の性質をあわせ持つ形で財産分与が行われるため、離婚時の協議や調停では、夫婦共有財産・慰謝料・扶養の要素を総合的に考慮します。
2. 「2年以内」のルールについて
離婚後の財産分与請求には、民法上「離婚のときから2年以内」という期間制限があります。これは、当事者の経済的・精神的安定を図るため、いつまでも過去の問題を引きずらないようにする趣旨です。2年を過ぎても請求が絶対に不可能というわけではないという見解もありますが、判例や実務上は2年を経過すると非常に難しくなることが現実です。
3. 放棄合意の効力
離婚の際に、「財産分与の請求権については放棄する」といった明示的な合意をするケースがあります。通常、この合意は有効とされ、後日になってから「やっぱり請求したい」といっても法的には認められない可能性が高いです。しかし、以下のような事情がある場合には、合意そのものが無効または取り消し可能となる可能性があります。
・脅迫や詐欺を伴って合意が成立した場合
・夫婦間の財産について重要な情報が隠されていた場合
・放棄合意が公序良俗に反するほど不当な内容だった場合
実際には、「書面上そう明記されているが、自分はきちんと理解していなかった」といった主張では覆すことは難しく、立証も容易ではありません。合意書や公正証書の内容、作成時の状況、双方の認識などを具体的に検証する必要があります。
4. 新たな財産が判明した場合の手続き
離婚後に相手方が隠していた、あるいは当時は知らなかった財産が発覚した場合、まずは以下の流れで対応するのが一般的です。
- 情報収集
不動産であれば登記情報、預金口座であれば取引履歴などを可能な限り収集し、事実関係を確認します。 - 協議または調停申立
相手方と直接話し合いをして財産分与を求めることができればそれに越したことはありません。話し合いが難しい場合、家庭裁判所に調停を申し立てます。 - 審判・訴訟の可能性
調停が不成立の場合や、相手方がまったく協力しない場合は審判手続きや訴訟に進むことも視野に入れます。
5. 実務での注意点
- 時効の問題
離婚後2年を超えてから請求しようとしても、法的には認められない可能性が高い点に留意してください。 - 書面の取り交わし
離婚協議書や公正証書で「すべての財産分与を終えた」と明記されている場合、後になってから別途請求することはかなり難しくなります。 - 専門家への相談
財産分与のやり取りは、相手方が積極的に隠そうとすると情報が得られず苦労するケースが少なくありません。情報開示の手段や交渉手法に長けた弁護士のサポートは重要です。
弁護士に相談するメリット
1. 法的観点からの的確なアドバイス
弁護士に相談すれば、財産分与の対象となる財産の範囲や評価方法、2年以内の請求期限に関する解釈など、法的根拠に基づいたアドバイスを受けることができます。また、放棄合意がある場合でも、その効力の有無や交渉の可能性などを含めて専門的な見解を得られます。
2. 適切な交渉・手続きの代行
直接相手方と話し合うのが困難なときは、弁護士が代理人として交渉を行います。家庭裁判所の調停や審判、さらには訴訟に発展した場合でも、書類作成や手続きの進行を一任できますので、精神的・時間的負担を軽減できます。
3. 秘匿されている財産の調査
相手方が財産を隠している場合でも、弁護士の調査力や経験を活かして、不動産登記や銀行取引履歴などの情報を収集し、適切なアプローチをとることが期待できます。場合によっては弁護士が調査嘱託を行うなど、一般の方には難しい手法を駆使して証拠を固めることが可能になります。
4. 不安やトラブルの未然防止
法律の専門家がサポートしているという事実は、相手方との交渉においても一定の抑止力として機能します。さらに、法的根拠に沿った正確な主張を行うことで、無用なトラブルを未然に防ぎ、よりスムーズに財産分与を進めることができます。
まとめ
離婚後に「もっとしっかり話し合っておけばよかった」と後悔するケースは意外と多いものです。特に財産分与は金額も大きく、将来の生活基盤を左右する重要な問題です。離婚時に十分な情報が得られなかった場合、または後から財産が見つかった場合でも、離婚後2年以内であれば財産分与の請求ができる可能性があります。ただし、離婚時に放棄合意をしていたり、すでに財産分与が確定している場合は、原則として追加請求は難しいことも念頭に置きましょう。
離婚時に作成された書面(協議書、公正証書など)の内容や、夫婦間でどのような約束があったかを詳細に確認し、必要があれば弁護士に相談することで、見落としていた権利を適切に行使できるかもしれません。また、財産分与をめぐるトラブルを未然に防ぎたい場合も、専門家によるアドバイスが有用です。財産分与は離婚後の生活再建に直結する大切なステップですので、不安や疑問を抱えたままにせず、一度専門家の意見を聞いてみることをおすすめします。
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