身体的虐待における離婚のポイント

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はじめに

本稿では、身体的虐待(ドメスティック・バイオレンス、以下「DV」ともいいます)をはじめとする配偶者やパートナーからの暴力に関する情報をまとめています。厚生労働省の調査などでも、結婚経験のある女性のおよそ「7人に1人」がDV被害を受けたことがあるとされており、決して人ごとではありません。身体的虐待は、命の危険を伴うこともある重大な問題です。もし今、暴力や暴言などに悩まされている方がいらっしゃいましたら、どうか一人で抱え込まず、専門家への相談をご検討ください。

本稿は、DV(特に身体的虐待)の定義や具体例、離婚を検討する際の注意点、そして弁護士に相談するメリットなどを解説しています。ぜひご参考にしていただければ幸いです。勇気を出して、少しでも早く穏やかな生活を取り戻すための手立てを探っていきましょう。

Q&A

Q1:そもそも身体的虐待(DV)とはどのような行為ですか?

一般的に身体的虐待とは、殴る・蹴る・突き飛ばす・押さえつけるといった暴力のことを指します。さらに、熱湯や水をかける、タバコの火を押し付ける、唾を吐きかける、無理やり部屋に閉じ込めるなどの行為も含まれます。これらの暴力によって負傷したり、場合によっては命を落とす可能性すらあるため、非常に深刻な問題です。

Q2:夫から暴力をふるわれていますが、子どもは巻き込んでいません。これでもDVに当たりますか?

もちろんDVに当たります。実際に子どもが暴力を受けていない場合でも、母親が受けている暴力を目の当たりにしているときは「面前DV」として扱われるケースがあります。子どもは精神的に大きなショックを受けることが多く、健全な成長に悪影響を及ぼす可能性があります。

Q3:夫婦ケンカがエスカレートしただけで「DV」と言うのは大げさでは?

互いに意見をぶつけ合うケンカと、身体的に危害を加える行為は別の問題です。どんな理由であれ、「殴る」「蹴る」といった行為は人権を侵害する行為であり、DVに当たります。思い当たる点がある場合は、早めに専門家へ相談しましょう。

Q4:証拠がないと離婚を有利に進められませんか?

DV被害を主張する場合、写真・録音・診断書などの証拠があると離婚の協議を進めるうえで有利です。しかし最優先はあなたの身の安全であり、必ずしも「証拠を確保するために危険な状況に留まらなければならない」というわけではありません。避難先としてDVシェルターを利用したり、相談記録を残すことも、証拠の一部として活用できる場合があります。

Q5:すでに別居しているのですが、証拠は少ししか残っていません。今からでも遅くないでしょうか?

遅くはありません。別居後に受診して得た診断書や、専門機関へ相談した記録などがあれば、それらが重要な証拠となります。自身の記憶を詳細にメモしておくことも非常に有効です。また、弁護士に依頼することで、どのような資料が証拠となり得るかを整理できますので、一度専門家にご相談ください。

解説

1.身体的虐待(DV)の定義と現状

身体的虐待には、先述したように殴る・蹴る・押さえつけるなどの暴力だけでなく、熱湯や水をかける、タバコの火を押し付ける、突き飛ばす、閉じ込めるといった残酷な行為が含まれます。結婚経験のある女性のうち約7人に1人が、こうした暴力や暴言をくり返し受けたことがあるともされており、決して稀なケースではありません。

さらにデータによれば、離婚理由の多くが「DVや暴力」が原因となっているという報告もあります。つまり、DVは家庭の問題にとどまらず、社会全体に影響を及ぼす重大な課題といえます。

2.身体的虐待がもたらす影響

  1. 被害者の精神的ダメージ
    DVが継続することで被害者は暴力に“慣れ”てしまい、「これくらいなら我慢できる」と深刻さを過小評価してしまう傾向があります。結果的に逃げるタイミングを失い、心身の傷がより深刻化してしまうことも少なくありません。
    また、暴力を受けない状態になっても、過去の体験からくる恐怖が消えず、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などを発症するリスクがあります。心の健康が著しく損なわれると、日常生活に支障をきたし、仕事や子育てが困難になる場合もあるのです。
  2. 子どもへの悪影響
    子どもの目の前で行われる「面前DV」は、子どもの心に大きな傷を残します。直接的に暴力を受けていなくても、両親の不仲や、目の前での暴力により情緒不安定になったり、学校生活に悪影響が出たりするケースが多く報告されています。子どもの安全と健全な育成のためにも、早めの対策が求められます。
  3. 社会的な孤立
    身体的虐待に悩む方は、周囲に相談できず孤立してしまうケースが多くあります。「家族の問題を外部に話すのは恥ずかしい」という気持ちや、「自分が悪いのではないか」という被害者自身の自責が強く働くためです。しかし、DVは決して被害者の責任ではありません。周囲へ助けを求めること、専門家に相談することは決して恥ではなく、むしろ命を守るために重要な行動です。

3.身体的虐待をする夫と離婚するためのポイント

  1. 証拠を集める
    離婚を話し合う際、夫の暴力を裏付ける証拠があるかどうかで交渉の進展度が変わる場合があります。暴力の痕の写真、音声・動画の録音、診断書、DV相談センターへの相談記録などは、離婚協議や親権争いで有利に働くことがあります。お子さんの親権を確保するためにも、まずは可能な範囲で証拠を集めておきましょう。
  2. 安全確保のための別居
    殴る、蹴るなどの身体的虐待を受けている場合、何よりも身の安全を優先すべきです。DVシェルターや友人・親族宅など、安全が確保できる場所へ避難してから離婚手続きを進めるケースは少なくありません。「別居したら相手が怒りを増幅させるのではないか」という不安がある場合も、専門家のサポートを得ることで、適切な手続きを踏みながら別居・離婚を進めることができます。
  3. 親権についての注意点
    身体的虐待をする夫が、後になって子どもの親権を主張してくるケースも考えられます。被害者側が冷静に証拠を集めておくことで、自身が子どもを安全に育てられる環境を整えていることを主張できます。また、親権争いは子どもの将来にも大きく影響します。安心して育てられる環境を守るためにも、早めに弁護士に相談し、適切な証拠を確保しておきましょう。

弁護士に相談するメリット

1.安全確保と法的手続きの同時進行

DV被害者にとって、最も大切なのは身の安全です。一方、離婚手続きや調停・裁判など、法的な対応も必要になります。弁護士を通じて相談すれば、安全を確保しながらスムーズに法的手続きを進められる可能性が高まります。

2.証拠収集のアドバイス

「どのようなものが証拠として使えるのか」「どのタイミングで証拠を確保すべきか」など、専門家の視点で具体的なアドバイスを受けることができます。DV被害は心身へのストレスが大きいため、ひとりですべてを抱え込むのは困難です。弁護士の力を借りれば、必要な手続きを的確に進めることができるでしょう。

3.相手方との交渉を代理できる

加害者と直接話し合うことは、被害者にとって大きな負担です。弁護士が交渉を代理してくれることで、不安や恐怖を和らげながら、適切な条件での離婚協議を進められます。また、相手方も弁護士が介入していると分かれば、違法な要求や執拗な接触を控える場合が多いため、トラブルの拡大を防ぎやすくなります。

4.親権や慰謝料の獲得をサポート

離婚が成立しても、親権をどうするか、慰謝料や養育費をどう請求するかは大切な問題です。DVの被害実態を踏まえたうえで、最適な法的手段をとることで、被害者と子どもの未来を守る可能性が高まります。

まとめ

身体的虐待(DV)は、決して被害者に非があるわけではなく、早めの相談と適切な対応が何より重要です。暴力を受けている状態が続くと、心身ともに大きなダメージを負い、子どもにも深刻な影響を及ぼすおそれがあります。もしDV被害に悩まれているなら、一人で抱え込まずに専門家へ相談することを強くおすすめします。離婚を検討する際は、暴力の証拠を収集する、子どもを守るための環境を整えるなど、さまざまな対応が必要になりますが、弁護士をはじめとする専門家の力を借りれば、より安心して手続きを進めることができます。

解説動画のご紹介

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