はじめに
本稿は、「経済的DV(ドメスティック・バイオレンス)」の問題に直面している方や、それがどのようなものかを知りたい方に向けた解説です。
DVと聞くと、身体的な暴力や大声で怒鳴るなどの精神的な暴力をイメージされる方が多いかもしれませんが、経済的DVは「夫婦のどちらか一方が生活に必要な費用を十分に渡さない」「一方的に借金をさせる」など、生活費や収入に関わる問題を用いて相手を支配する行為を指します。
経済的DVは、被害に遭っている当事者が「単なる倹約ではないか」「自分が我慢すれば済む」と考え、問題を深刻に捉えないケースが少なくありません。
しかし、結婚生活において収入を不当に制限されることは、身体的な暴力と同様に大きな問題です。また、夫が高収入にもかかわらず生活費を極端に制限したり、家計の管理を一方的に奪ったりするケースもあり、そのような不合理な制限は配偶者の基本的な生活を脅かす行為と言えます。
本稿では、経済的DVの概要や特徴、そしてDVを受けているパートナーとの離婚を考える際のポイントなどをQ&A形式や解説形式でまとめました。
また、弁護士に相談するメリットもご紹介し、最終的には動画による解説もご案内しております。
離婚を検討されている方や、経済的DVという問題について少しでも興味をお持ちの方は、ぜひ最後までご覧いただければ幸いです。
Q&A
本稿では、経済的DVに関してよくいただく質問をまとめました。
経済的DVの具体例や離婚手続きとの関係について整理していますので、疑問をお持ちの方は参考にしてください。
Q1:経済的DVとは具体的にどのような行為を指しますか?
A:一般的には、夫婦の一方(多くは夫)が家計を一方的に握り、もう一方(多くは妻)に対して必要な生活費をまったく渡さない、あるいは明らかに不足する金額しか与えない行為などが挙げられます。さらに、給与や貯金の金額を秘密にして管理させない、ギャンブルなどで借金を重ねたうえ、妻名義で借金をさせるといったケースも含まれます。また、妻が外に働きに出ることを不当に禁止することで、自分の収入を常にコントロール下に置こうとする行為も含まれます。
Q2:共働きなのに経済的DV被害になる場合はあるのでしょうか?
A:共働き夫婦であっても、妻の収入だけでは十分な生活を維持できないのに、夫が妻の収入に依存してまったく生活費を出さなかったり、家計についての情報開示を拒んだりすれば、経済的DVとなり得ます。夫婦は協力して生活を維持する義務があります(民法752条)。しかしそれを無視し、一方に金銭的な負担を大きく押し付けるのはDVの一種と考えられます。
Q3:経済的DVの証拠にはどのようなものが必要ですか?
A:具体的には「家計簿」「銀行通帳」「クレジットカードの明細書」「夫婦間のやり取り(メールやLINEなど)」などが役立ちます。どの程度の収入があるのか、家計の支出がどのくらい必要なのか、実際にどれくらいのお金を受け取っていたのかといった点を示す資料を集めましょう。また、借金に関する書類や督促状、夫がギャンブルに使用した領収書・明細なども重要な証拠となります。
Q4:経済的DVを受けている場合、どのような離婚方法があるのでしょうか?
A:離婚には「協議離婚」「調停離婚」「審判離婚」「裁判離婚」といった種類があります。経済的DVがある場合、円満な話し合いが難しいケースが多いため、いきなり協議で解決するのが難しいこともしばしばです。そのような場合には、家庭裁判所での調停や、最終的に裁判での離婚手続きを検討することになります。DVの実態を示す証拠があれば、離婚や慰謝料請求で有利に進められる可能性が高まります。
解説
ここからは、経済的DVの特徴や具体例、そして離婚に向けて準備をするうえでの注意点について、詳しく解説していきます。単なる倹約や金銭トラブルとは異なる“DV”としての側面を理解し、適切に対処するための基礎知識を身につけましょう。
1.経済的DVの基本的な考え方
経済的DVとは、夫婦間で一方がもう一方に対して金銭的な支配・圧力をかける行為です。これは単なる意見の相違や、家計を管理する側・される側といった役割分担の問題ではありません。明らかに生活に必要な費用を渡さない、相手の就労を妨害する、勝手に借金を重ねるなど、相手に大きな不利益を強いる行為が反復・継続して行われれば、それは経済的DVとみなされる可能性があります。
2.よくある経済的DVの具体例
- 生活費を渡さない、あるいは極端に少ない金額しか渡さない
夫が高収入にもかかわらず「足りないなら自分で何とかしろ」と言って生活費を渡さない場合などは、典型的な経済的DVです。結果として、妻が独身時代の貯金を切り崩したり、親から援助を受けたり、さらには借金をせざるを得ない状況に追い込まれることが多くあります。 - 夫が給与や貯金の額を全く教えない
夫婦は互いに協力・扶助する義務を負います。しかし、その情報開示を拒み、一方的に夫の収入を秘匿する行為は、経済的DVとして問題視されやすいです。必要な家計費の計画すら立てられないため、妻が家計管理を事実上できない状況となります。 - 借金を重ねる、または妻名義で借金をさせる
夫がギャンブル依存などで借金を重ね、家計に回すお金がなくなるだけでなく、妻の名義で借金契約をさせるケースがあります。これにより夫婦の負債が雪だるま式に増え、妻の生活が圧迫されるだけでなく、信用情報にも傷がつきます。 - 妻が外に働きに行くことを阻害する
妻がもともと専業主婦であった場合、働きたくても「子どもの面倒をどうするんだ」「主婦は家を守るものだ」などの言葉で職に就かせないケースがあります。さらに十分な生活費は渡さず、経済的に追い詰める行為が重なると、外部と接点を持てないままDVから抜け出せない状況に陥ります。
3.共働き夫婦における経済的DVの考え方
近年では夫婦ともに働く家庭が増えています。そのため「妻も働いているなら問題にならないのでは?」と思われがちですが、実際には以下のようなケースで経済的DVが認められる可能性があります。
- 妻の収入だけでは到底生活費をまかなえないのに、夫が家計への負担を拒否する
- 夫婦共同の口座などを作らず、夫が一方的に家計管理を主導して、妻に生活費を渡さない
- 夫が高額所得にもかかわらず実質的に家賃や光熱費、保険料などを妻が負担している
夫がまったく情報を開示せず、妻が自分の収入とわずかな手当だけで生計を立てなければならないような状況であれば、実質的に経済的DVと判断される可能性があります。
4.経済的DVの夫と離婚するためのポイント
- 証拠を集める
経済的DVは目に見えづらい暴力形態のため、裁判所などの場でも立証が難しい場合があります。日頃から「家計簿」「銀行通帳」「クレジットカードの明細」「夫婦間の金銭トラブルを示すメールやLINEのやり取り」などをこまめに保存しておきましょう。借金の証拠や、夫がギャンブルで使った証拠なども忘れずに確保することが大切です。 - 離婚の手続きを見据えて準備する
経済的DVを理由として離婚する場合、すぐに協議で合意できれば良いのですが、DVを行っている配偶者が話し合いに応じないことも多々あります。協議離婚が困難な際には、家庭裁判所での調停を申し立てる流れを想定しておくことが重要です。その際に必要な証拠書類や手続きの流れなどを、事前に把握しておくとスムーズです。 - 安全確保にも注意する
経済的DVに加え、精神的・身体的な暴力に発展する可能性がある場合には、安全面の確保が最優先です。無理に離婚を切り出すと暴力的な行動に出る恐れがあるケースもあるため、シェルターの利用や警察への相談なども視野に入れましょう。
弁護士に相談するメリット
経済的DVに限らず、DVが絡む離婚問題は法的な論点が多岐にわたります。以下のような面で、弁護士のサポートを受けるメリットが大きいと言えます。
- 正確なアドバイスを受けられる
経済的DVが法的にどのように評価されるか、どういった証拠が必要かなど、状況に応じたアドバイスを得られます。また、慰謝料や財産分与、婚姻費用の分担など、離婚時に考慮すべきポイントは数多く存在します。専門家に相談することで、無駄のない準備が可能となります。 - 精神的な負担を軽減できる
DVの事実を抱えながら離婚手続きを一人で進めるのは、多大なストレスを伴います。弁護士が代理人として相手方とやり取りをすることで、当事者同士の直接対立を回避できるため、精神的負担を軽くすることが期待できます。 - 裁判手続きにも対応できる
協議や調停で離婚がまとまらない場合、最終的には裁判となる可能性があります。裁判は書面の作成や証拠の提出など高度な専門知識が必要です。弁護士に依頼しておけば、裁判手続きもスムーズに進めることができます。 - 適切な金銭請求のサポート
経済的DVのケースでは、婚姻費用や財産分与、さらには慰謝料などの金銭問題が複雑に絡んできます。相場や計算方法の理解に加え、相手方と交渉する際の法的根拠を示すためにも、弁護士の力が役に立ちます。
まとめ
経済的DVは、身体的DVや精神的DVに比べると「わかりにくい」形態の暴力ですが、その被害は深刻なものです。一方が十分な生活費を渡さず、相手に借金を強要したり、収入を隠したりすると、被害者の自由や権利は大きく損なわれてしまいます。共働きでも同じく、実質的に妻の収入ばかりに頼り、夫が責任を放棄するような構造になっている場合は、DVの疑いがあります。離婚を検討する際には、まずは証拠をしっかりと集め、ご自身がどのような法的手段を取りうるのかを把握することが大切です。
また、DVがあると、協議離婚だけでなく調停や裁判に進むケースも少なくありません。そのため、準備不足のまま独断で動くと、相手方との交渉はもちろん、調停や裁判を進める過程で大きな負担を背負うことになります。少しでも不安を感じるのであれば、弁護士等の専門家へ相談し、法律的観点からどのように解決を図れるか確認することをおすすめします。
解説動画のご紹介
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