DVをした夫に対しても面会交流を認めなければならない?

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はじめに

近年、夫(またはパートナー)からのドメスティックバイオレンス(以下、DVといいます)が原因で離婚に至るケースは少なくありません。DVには身体的な暴力だけでなく、精神的暴力や経済的圧力など、さまざまな形態があります。これらの暴力は被害者の方に大きな負担と苦痛を与え、場合によっては子どもにも深刻な影響を及ぼします。

離婚後に問題となりやすいのが、「DVをした夫が、子どもとの面会交流を要求してきた場合には応じなくてはならないのか」という点です。子どもをDV加害者に合わせることで子どもへの悪影響が心配であったり、自分自身も加害者に会うことに恐怖を感じたりするケースも多くあるでしょう。しかし、法律上、親には子どもと面会交流をする権利が基本的に認められているため、安易に「絶対に会わせたくない」と拒むだけでは解決に至らない可能性もあります。

本稿では、DVを受けた方が離婚後に直面する面会交流の問題点や、裁判所がどのように判断するのか、また実際にDVを理由に面会交流を制限・拒否したい場合の具体的な対処法について、弁護士法人長瀬総合法律事務所が解説いたします。特に、家庭裁判所による調停や審判手続きを活用する方法などもご紹介し、DV被害者の方が安心して子どもを守りつつ、法的に適正な解決を図れるようサポートするための情報をお伝えします。

Q&A

Q1. DVが原因で離婚し、私(母親)が親権を得ました。しかし、元夫が「子どもに会いたい」と面会交流を要求してきます。DVをしていた夫に子どもを会わせたくない場合、どうすればよいでしょうか?

A1.DVが原因の場合でも、相手側が子どもに会う権利(面会交流権)を主張してくることは多々あります。しかし、実際に面会交流を行うことで、あなたや子どもがDVの影響や恐怖を再び受ける可能性がある場合には、裁判所に対し「面会交流を制限すべきである」と主張することが考えられます。
具体的には、DVが続く恐れがあることや、子どもが直接加害者と会うことによって身体的・精神的に深刻な影響を受ける危険性があることなどを理由に、家庭裁判所に調停や審判を申し立て、面会交流に制限を加えるよう求める手続きが有効です。さらに、必要性が認められれば保護命令を活用し、「一定距離内に近づくことを禁止する」「連絡を禁止する」などの措置を求めることも可能です。

Q2. 裁判所の調停ではどのような流れで判断されるのでしょうか?

A2.面会交流の調停を申し立てると、まずは家庭裁判所調査官等が事情を詳しく調べる可能性が高いです。調査の過程では、子どもの状況やDV被害の実態などを総合的に評価し、子どもの利益の観点から面会交流の可否や方法・頻度を検討します。
DVの事実やDVによって生じた恐怖感が子どもに影響を与えると認められる場合、「直接の面会を避けるべき」という判断や、もしくは「第三者(面会交流支援機関など)が同席する形でのみ面会を許可する」など、制限付きの交流方法が決定されることも少なくありません。つまり、子どもの心身を守るために、調停委員や裁判所調査官が関与することで、より適切な面会交流のあり方が模索されます。

Q3. DVをしていた夫が「子どもと会う権利は親として当然だ」と主張しています。本当に親には絶対的な面会交流の権利があるのでしょうか?

A3.日本の法律上は、基本的に子どもと離れて暮らす親にも面会交流を求める権利があります。しかし、この権利は無制限・絶対的なものではありません
あくまで、面会交流の最優先の目的は「子どもの健全な成長と利益」です。DVをしていた親と直接会うことで子どもが怯えたり、トラウマを深めたりする可能性が高いと判断される場合には、面会交流の方法を制限したり、面会交流そのものを認めなかったりする決定がなされることもあります。最終的には家庭裁判所が事案ごとに慎重に審理し、「子どもの利益になるかどうか」という視点で判断します。

解説

1. DVと面会交流の原則

一般的に、離婚後の非同居親(今回はDVを行った夫)と子どもの面会交流は、子どもの健全な成長のために重要とされ、法律上、推奨される傾向にあります。しかし、それは「子どもが安全で安心して面会できる環境が整っている場合」が前提です。もし、DV被害者である母親や、子ども自身に重大な不安があり、実際に危害が及ぶ可能性があるなら、面会交流を強行することは適切ではありません。

2. 裁判所での調停・審判手続きのポイント

DVを理由に面会交流を拒否したい・制限したい場合、家庭裁判所での調停や審判手続きの利用が有効です。以下に主なポイントを示します。

  1. 申立の理由を明確にする
    • DV被害の具体的事実(暴言や暴力の内容、頻度、被害時期など)を示し、それが子どもに及ぼすリスクや被害者自身の恐怖心を具体的に説明します。
    • DVを裏付ける警察の被害届や診断書、LINEやメールなどのやり取り、日記等を証拠として提示できるとより有利です。
  2. 子どもの意向を把握する
    • 子どもがある程度の年齢になっている場合、子どもの「会いたい」「会いたくない」という気持ちが重要な考慮要素となります。
    • 調査官調査において子どもの意向が尊重される可能性があるため、事前に子どもとコミュニケーションを取り、意思を確認しておくことが大切です。
  3. 第三者機関の活用
    • 裁判所によっては、「面会交流支援機関」や「公的機関の施設」などの第三者を介した面会を提案される場合があります。
    • 直接の対面を避けるために、オンライン面会などの手段が模索されることもあります。
  4. 面会交流の実施方法の多様化
    • 仮に面会交流が認められるとしても、家庭裁判所は通常、子どもの安全を最優先に考慮します。
    • 例えば「月に一度、短時間のみ」「監視人(調停委員や支援者)付きで会う」「手紙やメールでのやり取りのみ」「オンラインでのビデオ通話のみ」など、柔軟に方法が決められることがあります。
    • これにより、DV加害者との直接接触が極力制限される場合があります。

3. 保護命令の活用

DV防止法に基づき、保護命令制度を利用することも検討できます。保護命令とは、被害者と加害者が一定期間、生活圏を分けたり連絡を禁じたりするなどして被害を防ぐことを目的とするものです。保護命令としては、大きく分けて以下の種類があります。

  • 接近禁止命令(一定距離内への接近禁止・待ち伏せ禁止・自宅や職場付近への立ち入り禁止など)
  • 退去命令(被害者と同居している加害者に対して住居からの退去を命じる)
  • 電話やSNS等による連絡を禁止する命令
  • 親族等への連絡禁止命令
  • 子どもへの接近禁止命令(子どもへの監護や教育の権限がない場合でも発令されることがある)

ただし、保護命令はあくまで被害の拡大を防止する手段であって、面会交流そのものを一律に禁止するわけではありません。調停・審判と併せて、保護命令の必要性を検討する形が一般的です。

弁護士に相談するメリット

1. DV被害の立証や主張がスムーズになる

DVがあった事実を裁判所に理解してもらうには、具体的・客観的な証拠や状況説明が必要です。しかし、当事者だけで対応しようとすると、DV被害の事実を適切にまとめて証拠化するのは難しい面があります。
弁護士に相談することで、警察への相談記録や診断書、DV被害を示すメールやSNSのやり取りなど、法的に有力な証拠をどう整理して提出すればよいか具体的なアドバイスが受けられます。また、主張の組み立て方についても専門的な視点からの助言を受けられるため、被害の深刻さを裁判所に正しく伝えやすくなります。

2. 子どもの利益を最大化するための戦略を立てられる

面会交流に関する問題は、あくまで子どもの幸せが最優先されるべきです。DV加害者である夫を無条件に排除するのではなく、子どもを守りつつ、裁判所での手続きの中で最適な落としどころを探す必要があります。
弁護士に相談すれば、調停委員や裁判所調査官とのやり取りについて適切な準備ができ、どのような証拠や主張を提示すれば裁判所が子どもの安全に配慮した決定を下してくれるかといった観点で助言を受けられます。

3. 保護命令や面会交流調停を円滑に進められる

DV防止法による保護命令や、面会交流調停・審判の手続きを進めるにあたって、書類の作成や締め切りへの対応など、専門的な知識が求められます。弁護士が代理人として手続きを行うことで、要件を満たす申立てができるだけでなく、相手側との不要な接触やトラブルのエスカレートを抑える効果も期待できます。

4. メンタル面のサポート

DV被害を受けた方は、加害者と関わることを考えるだけでも大きなストレスを感じるものです。弁護士を代理人として立てることで、相手方とのやり取りを間接的に行えるため、被害者本人が直接連絡を受けたり恐怖を感じたりする機会を減らすことができます。必要に応じて、カウンセリング機関の紹介や公的支援機関のサポートを得ることもできるので、精神的負担を軽減するための体制づくりが可能になります。

まとめ

DV被害者の方にとって、離婚後も引き続き相手の行動に悩まされる場面は少なくありません。特に、子どもとの面会交流については、法律上「子どもの利益」を最優先に考えつつも、DVがあった場合には慎重に扱う必要があります。

  1. DVを理由に面会交流を制限・拒否するためには、家庭裁判所の調停・審判手続きを利用することが望ましい
  2. DVの事実を裁判所に伝えるためには、証拠の整理が大切。警察へ届けた記録や診断書、メール・SNS等のやり取りの証拠化を積極的に行う。
  3. 子どもの意向を把握し、その気持ちを尊重したうえで裁判所に対応する
  4. 必要に応じて保護命令を活用し、加害者との接触を最小限に抑える
  5. 弁護士へ相談すると、書類作成や裁判所手続きのサポートを受けられ、メンタル面でも不安が軽減される

DV被害を受けた方が「子どもを守るためにどうしたらいいのか」「どのように法的手続きを進めるべきか」と不安を抱えたときには、遠慮なく法律の専門家に相談しましょう。弁護士法人長瀬総合法律事務所では、DVを含む離婚問題全般について、依頼者の方に寄り添った丁寧な対応を心がけ、最適な解決策をご提案いたします。

解説動画のご紹介

離婚問題について解説した動画を公開しています。離婚問題にお悩みの方はこちらの動画もご参照ください。


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