はじめに
離婚時に子どもの親権や監護権がどちらの親に帰属するかが決まったとしても、その後の生活環境や親子関係の変化によって「親権や監護権を変えたい」という要望が出てくるケースがあります。しかし、子どもの生活基盤をコロコロ変えるのは、子どもに大きな負担を与えるため、安易に認められるわけではありません。
本稿では、親権や監護権の変更が可能なケースや、どういった手続き(調停・審判など)を経て変更が認められるのかを解説します。変更が認められるための要件や注意点、実務上の流れを整理し、離婚後の子どもの最善利益を守るための方策を示します。
Q&A
Q1:離婚で決まった親権は、一度確定すると変更できないのでしょうか?
親権は一度決まると原則として変わらないのが前提ですが、家庭裁判所が「変更が子どもの利益となる」と判断する場合、親権変更の手続き(調停や審判)を通じて変更が認められる可能性があります。ただし、子どもの安定を優先するため、簡単には認められません。
Q2:親権がない側が「子どもを引き取りたい」と思ったとき、どんな理由が必要ですか?
たとえば、親権者が育児放棄(ネグレクト)している、DVや虐待が発覚した、親権者が重病や死亡したなど、子どもの福祉に重大な影響を与える事情が発生したときに、変更の可能性が出てきます。単に「環境を変えたいから」などの理由では認められにくいです。
Q3:監護権の変更も同じ手続きになるのですか?
実務上、監護権の変更も親権変更とほぼ同様の手続きが用いられます。監護権だけ分属されている場合や、子どもの実質的監護者が変わることが子どもの利益となる場合、家庭裁判所で審理されることがあります。
Q4:親権や監護権変更の申立てはどうやって進めればいいですか?
まず、家庭裁判所に「親権者変更(または監護権者変更)調停」の申し立てを行い、話し合いがまとまらなければ審判で判断されます。子どもの年齢や意向、環境の変化について詳しく立証する必要があります。
Q5:子どもが成長して「今の親と暮らしたくない」と言ったら、親権変更はすぐ認められますか?
子どもの意思は重要ですが、それだけで変更を認めるわけではありません。監護実績や子どもの安全性などの総合判断によります。しかし、子どもが中学生以上で強い意思を示す場合、家庭裁判所も重視することが多いです。
解説
親権・監護権変更の実情
原則変更は困難
- 離婚で定めた親権者をコロコロ変えると子どもが混乱するため、原則として変更は認めないのが実務。
- 一方、親権者に重大な問題(虐待・病気・死亡など)がある場合は例外的に認められる。
監護者だけを変更するケース
- 親権は引き続き父または母が持つが、監護権(身上監護)だけを相手に移す例もある。
- 子どもの実際の生活や学業環境を優先し、家庭裁判所が調整する。
子どもの意思
- 子どもがある程度の年齢に達し、強い意思を表明する場合、親権変更の要素として重視。
- ただし、親権者による不当な誘導や洗脳が疑われるときは調査官が慎重に判断。
変更手続きの流れ
家庭裁判所への申立て
- 親権を変更したい親が「親権者変更調停申立」を行う。
- 必要書類:戸籍謄本、現在の親権状況を示す書類、変更理由の説明など。
調停での話し合い
- 調停委員が両者から事情を聴取し、子どもの生活状況を確認。
- 必要に応じて家庭裁判所調査官が親・子ども・学校・保育園等を調査し、報告書を作成。
審判または裁判
- 調停で合意できず、裁判官が判断する場合は審判で決定される。
- 審判結果に不服があれば、即時抗告などの手段もあるが、子どもの安定を考慮して慎重に行われる。
変更申立が認められる典型事例
親権者の虐待・ネグレクト
- 育児放棄や暴力が発覚し、子どもが危険にさらされている。
- DVによる子どもの身体・精神的ダメージが明らかな場合、もう一方の親が引き取る方が良いと判断されやすい。
親権者の死亡・重度の疾病
- 親権者が死亡した場合、当然子どもの監護を別の親が行う必要が出てくる。
- 重い病気や障害で育児が困難になった場合も変更の理由に。
長期別居と監護実績
- 離婚後、親権者が子どもを長期間別居させ、実質的に他方が面倒を見ている場合。
- 子どもの生活実態に合わせて親権を移す方向が検討される。
弁護士に相談するメリット
必要書類と証拠の整理
- 弁護士が状況をヒアリングし、変更を正当化できる理由(虐待、不適切な監護状況など)とその証拠を精査。
- 子どもの生活環境や健康状態を客観的に示すために、医療機関や教育機関のレポートなど収集を指示。
調停・審判での的確な主張
- 法律と判例に基づき、変更理由を調停委員や裁判官に分かりやすく説明。
- DV等が絡む場合も、適切な証拠を揃えつつ被害の深刻性を伝え、子どもの利益を最優先に考える。
子どもの意見聴取対応
- 子どもが意見を言える年齢なら、弁護士が家庭裁判所調査官や裁判所へのアピールを調整し、子どもの心情が誤解なく伝わるよう支援。
- 親の一方的な誘導が疑われる場合も、弁護士が中立的に真実を整理して裁判所に報告。
スムーズな合意形成
- 相手方が変更に反対していても、弁護士同士の交渉で譲歩点を探り、調停内で和解が得られる可能性が高まる。
- 審判となっても、弁護士が迅速かつ正確な書面提出を行い、長期化を防ぐ。
まとめ
離婚後の親権・監護権を変更するのは例外的で、子どもの福祉に重大な影響がある事由(虐待、親権者の死亡・重病、子どもの強い意思など)が必要
変更を望む場合、家庭裁判所に「親権者変更(監護権者変更)調停」を申し立て、調停不成立なら審判や裁判で判断が下される
弁護士に依頼すれば、適切な証拠(監護実績、DV証拠など)を備え、調停委員や裁判所を説得しやすくなる。子どもの意見も尊重し、短期間で結論を得る可能性が高まる
安易な変更は子どもの生活を不安定にするため、裁判所も慎重だが、正当な理由があれば変更が認められるケースもあり、弁護士と連携して必要性を立証することが肝要
親権・監護権は子どもの安定した生活を守るために一度決まれば変わりにくい制度です。しかし、実際の生活や安全に重大な影響がある場合は、変更の必要性を冷静に立証すれば、家庭裁判所が認める可能性はゼロではありません。弁護士のサポートで、正当な理由と十分な証拠を示し、子どもの福祉を最優先した解決策を追求しましょう。
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