はじめに
「離婚したいけれど、相手が応じてくれない。別居してしまえば、いつかは離婚できるのだろうか?」
「別居してから数年経つが、まだ離婚は成立しないのだろうか?」
離婚の話し合いが行き詰まったとき、「別居」という選択肢が頭をよぎる方は多いでしょう。実際、別居は離婚への第一歩として非常に有効な手段です。しかし、「何年別居すれば自動的に離婚できる」という明確な法律の規定があるわけではありません。
別居期間は、裁判所が「夫婦関係がもう修復不可能なほど破綻しているか」を判断するための重要な物差しの一つですが、その長さだけで決まるものではなく、別居に至った理由や夫婦の状況によって必要な期間は大きく異なります。
本記事では、離婚成立の要件としての「別居期間」の考え方、ケースごとの期間の目安、そして別居を離婚につなげるための重要なポイントについて解説します。
Q&A
Q1. 「別居期間○年で自動的に離婚」という法律はありますか?
日本の法律には、「○年別居すれば自動的に離婚が成立する」という条文はありません。
離婚が成立するのは、話し合いで合意した時か、裁判で「法定離婚事由(離婚原因)」があると認められた時のみです。ただし、長期間の別居は、法定離婚事由の一つである「婚姻を継続し難い重大な事由」として評価されます。つまり、別居期間は「離婚を認めてもらうための強力な証拠」として機能します。
Q2. 離婚が認められる別居期間の目安はどれくらいですか?
離婚理由や有責性(どちらに責任があるか)によって異なります。
一般的な目安としては以下の通りです。
- 性格の不一致など(双方に決定的な落ち度がない): 3年〜5年程度
- 相手に不貞やDVなどの原因がある: 短期間(即時〜1年未満)でも認められる可能性が高い
- 自分が不倫などをした(有責配偶者): 7年〜10年以上という長い期間が必要
Q3. 「家庭内別居」でも別居期間としてカウントされますか?
原則として、家庭内別居は法的な「別居期間」として認められにくい傾向にあります。
裁判所は「住居を別にし、生計も別にしている状態」を別居と捉えます。同じ屋根の下で暮らしている以上、完全に生活空間を分け、会話も食事も一切別々であったとしても、外部からはその実態が見えにくく、夫婦としての協力関係が完全に断絶していると証明するのが難しいためです。
解説
1. なぜ「別居期間」が離婚成立の要件になるのか
裁判で離婚が認められるためには、民法で定められた「法定離婚事由」が必要です(不貞行為、悪意の遺棄など)。その中に「その他婚姻を継続し難い重大な事由」という項目があります。これは、「もう夫婦関係が修復不可能なほど壊れている(破綻している)」状態を指します。
しかし、「愛が冷めた」「信頼できない」といった心のうちは目に見えません。そこで裁判所は、客観的に確認できる事実として「別居期間」を重視します。
「これだけ長い間、離れて暮らしていて、交流もないのだから、もう夫婦としての実態はない(=破綻している)」と判断するのです。
つまり、別居はそれ自体が離婚原因というよりも、「夫婦関係の破綻を証明するための事実」として機能します。
2. 【ケース別】離婚に必要な別居期間の目安
必要な別居期間の長さは、ケースによって大きく異なります。
① 性格の不一致など(双方に責任がない・同程度の場合)
最も多いケースです。「価値観が合わない」「親族との折り合いが悪い」など、どちらか一方が悪いわけではないが、一緒に暮らせない場合です。
- 目安:3年〜5年程度
- 以前は5年以上が必要と言われていましたが、近年は期間が短縮される傾向にあり、3年程度の別居で破綻が認められるケースも増えています。
- ただし、別居期間中に頻繁に連絡を取り合っていたり、宿泊を伴う交流があったりすると、「修復の可能性がある」とみなされ、期間のカウントがリセットされる可能性があります。
② 相手に有責性がある場合(DV、モラハラ、不貞など)
相手の暴力や浮気が原因で、身を守るために家を出た場合です。
- 目安:期間は問われない(短期間でも可)
- この場合、離婚の決め手は「別居期間」ではなく「相手の有責行為(不法行為)」そのものです。したがって、別居直後であっても、暴力の診断書や不貞の証拠があれば離婚は認められます。
- 証拠が不十分な場合は、ある程度の別居期間(半年〜1年など)を積み重ねることで、破綻を補強していくことになります。
③ 自分に有責性がある場合(有責配偶者からの請求)
自分が不倫をして家を出た場合など、離婚原因を作った側からの請求です。
- 目安:7年〜10年以上
- 裁判所は、身勝手な理由での離婚請求を厳しく制限しています。そのため、通常の倍以上の期間が必要となることがあります。
- さらに、「未成熟の子どもがいないこと」「相手が離婚により過酷な状況にならないこと」などの厳しい条件もクリアする必要があります。
3. 別居期間を「実績」として認めてもらうための注意点
単に家を出ればよいというわけではありません。裁判所に「婚姻関係が破綻している」と認めてもらうためには、別居の「質」も重要です。
住民票の異動
別居の実態を公的に証明するためには、住民票を異動させておくことが望ましいです。住民票が一緒のままだと、対外的に「同居している」と判断されるリスクがあります(ただし、DV避難など相手に住所を知られたくない場合は、閲覧制限の手続きや、異動させない措置が必要です)。
生活費(婚姻費用)の分担
ここが重要なポイントです。
「離婚したいから」といって、生活費の支払いを一方的に止めて別居を強行すると、「悪意の遺棄(民法770条1項2号)」とみなされ、あなたが有責配偶者になってしまう可能性があります。有責配偶者になると、前述の通り離婚へのハードルが上がります。
別居中であっても、法律上の夫婦である以上、収入が高い側は低い側に生活費(婚姻費用)を支払う義務があります。これをきちんと履行していることが、「正当な別居」として認められる条件の一つです。
交流の断絶
別居していても、頻繁に食事に行ったり、性交渉を持ったりしていると、「夫婦関係は破綻していない」と判断されます。離婚を目指すのであれば、事務的な連絡(子どものことなど)を除き、夫婦としての交流は控えるべきです。
4. 単身赴任との違い
「夫が単身赴任で5年別居しているから、離婚できるはずだ」という主張は通りません。
単身赴任は、仕事の都合による一時的な別居であり、夫婦が協力して家庭を維持する意思があるとみなされるからです。
単身赴任中に夫婦仲が悪化し、離婚を考えるようになった場合は、「もう同居するつもりはない」という意思を相手に明確に伝え、離婚に向けた協議を開始した時点からが、実質的な「離婚に向けた別居期間」として考慮されることになります。
5. 別居期間中にやっておくべきこと
別居期間は、ただ時間を過ごすだけの期間ではありません。離婚条件を有利にするための準備期間です。
- 証拠の確保: 相手の不貞やDVが原因なら、その証拠を別居前に確保しておくのがベストですが、別居後でもメールやLINEのやり取りなどが証拠になることがあります。
- 財産の把握: 別居時点での夫婦の財産(預貯金残高など)が、財産分与の基準となります。別居する日に通帳のコピーや残高証明を取っておくことが極めて重要です。
- 子どもの監護実績: 親権を争う場合、別居中に子どもを安定して養育している実績が重視されます。
弁護士に相談するメリット
別居期間と離婚成立の関係は、個別の事情によって判断が大きく分かれます。弁護士に相談することで、以下のようなメリットがあります。
1. 「あと何年必要か」の見通しが立つ
あなたの具体的な事情(別居理由、同居期間、子どもの有無など)を伺い、過去の判例に照らして、離婚が認められる可能性や必要な期間の目安をアドバイスできます。
2. 「悪意の遺棄」と言われない正しい別居の進め方
勝手に出て行くと不利になるケースがあります。弁護士は、事前に相手に置手紙を残す、生活費の送金を始めるといった、法的にリスクの少ない別居の始め方を指導します。
3. 別居中の生活費(婚姻費用)の確保
相手が生活費を払ってくれない場合、弁護士が速やかに「婚姻費用分担調停」を申し立て、適正な金額の支払いを確保します。これにより、経済的な不安なく別居期間を継続できます。
4. 早期離婚への交渉
「3年も待てない」という場合、弁護士が代理人となって交渉することで、裁判(判決)を待たずに、条件面での合意(解決金の支払いなど)による早期の離婚成立(和解)を目指せます。
まとめ
別居期間は、夫婦関係の終わりを告げるカウントダウンのようなものです。しかし、そのカウントが「いつゼロになるか(離婚できるか)」は、以下の要素で決まります。
- 自動的には離婚できない: あくまで「破綻の証拠」として扱われる。
- 期間の目安: 性格の不一致なら3〜5年、有責配偶者なら10年程度が目安。
- 別居の質: 住民票の異動、経済的な清算(婚姻費用の支払い)、交流の断絶が伴っていること。
- リスク管理: 一方的な別居は「悪意の遺棄」になるリスクがあるため、生活費の分担などを怠らないこと。
「とりあえず別居してみよう」と考える前に、その別居が離婚に向けて有利に働くのか、それとも不利になるのかを一度立ち止まって考える必要があります。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、これから別居を考えている方、すでに別居中で離婚が進まず悩んでいる方のご相談をお受けしています。あなたの貴重な時間を無駄にしないよう解決策をご提案いたします。
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