離婚条件の合意が破られたら?不履行に備えるための強制執行と和解書の知識

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はじめに

離婚に向けて話し合いを重ね、慰謝料や養育費、財産分与といった条件でようやく合意に至ったとしても、それで全てが終わるわけではありません。むしろ、離婚成立は「新たな生活のスタート」であると同時に、「約束が守られ続けるか」という不安の始まりでもあります。

「元夫が養育費を数ヶ月で支払わなくなった」

「慰謝料の分割払いが滞っている」

「面会交流の約束をしたのに、子供に会わせてくれない」

残念ながら、こうした「条件不履行(約束破り)」の相談は後を絶ちません。特に、不貞行為などの有責性が原因で離婚した場合や、長期間の別居を経て関係が希薄になっている場合、相手方の誠意に期待するのはリスクが高いと言わざるを得ません。

もし相手が約束を破ったとき、あなたには何ができるでしょうか?

泣き寝入りをしないためには、あらかじめ「強制力のある文書」を作成しておくこと、そして万が一の際には「強制執行」という法的手段を躊躇なく行使することが重要です。

本記事では、離婚条件が守られないリスクに備えるための具体的な方法、特に「強制執行」の仕組みと、その前提となる「判決」や「和解書」の効力について解説します。

条件不履行と強制執行に関するQ&A

離婚条件の不履行に直面した際、多くの相談者様が抱く疑問についてQ&A形式で回答します。

Q1. 相手が養育費を支払わなくなりました。すぐに相手の給料を差し押さえることはできますか?

お手元の「合意文書」の種類によります。

もし、離婚協議書(私文書)しか作成していない場合、すぐには差し押さえ(強制執行)ができません。まずは裁判を起こして判決などを得る必要があります。

一方、「強制執行認諾文言」付きの公正証書を作成している、あるいは家庭裁判所の調停調書や判決書、裁判上の和解書がある場合は、裁判を経ずに直ちに相手の給与や預金を差し押さえる手続きに入ることが可能です。

Q2. 「和解書」を作成しましたが、これは法的にどのくらい強い効力がありますか?

「和解書」には大きく分けて2種類あり、効力が異なります。

一つは、当事者同士(または弁護士間)で作成した私的な「示談書(和解契約書)」です。これは契約としての効力はありますが、不履行があっても直ちに強制執行はできません。

もう一つは、裁判所の手続きの中で作成される「裁判上の和解書(和解調書)」です。こちらは判決と同じ効力を持ち、不履行があれば直ちに強制執行が可能です。ご自身の和解書がどちらに該当するか確認が必要です。

Q3. お金の問題ではなく、「子供に会わせる」という約束が守られない場合も強制執行できますか?

金銭以外の義務(面会交流や不動産の明け渡しなど)についても強制執行の手続きはありますが、金銭の差し押さえとは仕組みが異なります。

面会交流の場合、無理やり子供を連れてくるような直接的な強制はできません。その代わり、「約束を破るたびに〇万円を支払え」と命じることで、心理的圧力をかけて履行を促す「間接強制」という方法がとられることが一般的です。

解説:条件合意が破られた場合に備える法的知識

離婚条件の不履行に備えるためには、まず「どのような形で合意するか」が重要です。そして、実際に不履行が起きた際に発動する「強制執行」の仕組みを理解しておく必要があります。

1. 「債務名義」がなければ強制執行はできない

相手が約束を破ったとき、裁判所を通じて相手の財産を無理やり回収する手続きを「強制執行」といいます。しかし、強制執行をするためには、単に「約束した」という事実だけでは足りません。

その権利が公的に証明された文書、すなわち「債務名義(さいむめいぎ)」が必要です。

債務名義になるもの・ならないもの

  • × 口約束・メール・LINE: 証拠にはなりますが、債務名義ではありません。
  • × 離婚協議書(私文書): 印鑑を押していても、これだけでは強制執行はできません。
  • ○ 公正証書(強制執行認諾文言付き): 金銭の支払いに関しては、裁判なしで強制執行できる強力な債務名義です。
  • ○ 調停調書・和解調書: 家庭裁判所での調停や裁判上の和解で作成された文書。判決と同じ効力を持ちます。
  • ○ 判決書: 裁判で勝訴し、確定した判決文。

有責配偶者との交渉や、長年の別居で信頼関係がない場合は、「債務名義」となる形式(公正証書や調停調書など)で合意を残すことが重要です。

2. 強制執行の具体的な種類と対象

債務名義があれば、相手が条件を履行しない場合に、裁判所に申し立てて強制執行を行うことができます。主な種類は以下の通りです。

給与の差し押さえ(債権執行)

離婚関連、特に養育費の不払いで最も有効な手段です。

相手の勤務先から支払われる給与の一部を、相手に渡る前に天引きして回収します。

  • メリット: 養育費の場合、一度手続きをすれば、将来の分まで継続的に差し押さえが可能です。また、通常は給与の4分の1までしか差し押さえられませんが、養育費に関しては2分の1まで差し押さえが認められています。
  • 注意点: 相手が退職してしまうと効力を失います。

預貯金の差し押さえ(債権執行)

相手名義の銀行口座にある預金を回収します。

  • 注意点: 「〇〇銀行の××支店」というように、口座を特定する必要があります。タイミングによっては残高が少ない場合もあり、いつ行うかが重要です。

不動産や動産の差し押さえ

土地・建物や、自動車・貴金属などを競売にかけ、その代金から回収します。

  • 注意点: 手続きに時間と費用がかかるため、金額が大きい場合(慰謝料や財産分与の未払いなど)に検討されます。

3. 金銭以外の不履行への対処(面会交流・引き渡し)

「子供との面会交流を拒否された」「出て行った家を明け渡してくれない」といった、金銭以外の条件不履行については、「間接強制」という方法がとられることが多いです。

  • 間接強制: 「約束を守らない期間1日につき〇万円支払え」「面会を拒否するごとに〇万円支払え」といった命令を裁判所が出します。金銭的な負担を課すことで、相手に「約束を守ったほうがよい」と思わせ、自発的な履行を促します。
  • 直接強制(子の引き渡し): 子供の引き渡しに関しては、間接強制でも従わない場合、執行官が直接子供を保護し、親権者のもとへ連れ帰る「直接強制」が認められるケースもありますが、子供への心理的負担を考慮し、慎重に判断されます。

4. 有責配偶者・別居期間とリスク管理

今回のテーマである「有責配偶者」や「別居期間」は、不履行リスクを予測する上で重要な要素です。

  • 有責配偶者: 不倫などで離婚原因を作った側は、離婚したい一心で、実現不可能な好条件(高額な慰謝料など)を安易に約束してしまう傾向があります。しかし、熱が冷めた後や再婚後に支払いが滞るケースが多いため、確実に回収できる現実的なラインを見極め、公正証書化することが重要です。
  • 別居期間: 長期間別居している場合、相手の現在の勤務先や資産状況が分からなくなっていることがあります。強制執行をするには「相手の財産の場所」を特定する必要があるため、合意前に相手の資産情報の開示を求めること、あるいは「財産開示手続」などの法的制度を利用する準備が必要です。

弁護士に依頼するメリット

条件不履行への備えや、実際に不履行が起きた際の対応は、専門知識を要する複雑な手続きです。弁護士に依頼することで、以下のメリットが得られます。

1. 抜け穴のない「債務名義」の作成

公正証書や和解書を作成する際、文言一つで強制執行の可否が変わることがあります。

例えば、「誠意をもって支払う」といった曖昧な文言では強制執行できません。「毎月〇日限り、金〇円を、××銀行の口座に振り込んで支払う」といった、執行可能な具体的条項(特定性・給付条項)を弁護士が作成します。

2. 「財産調査」と執行手続きの代行

いざ強制執行をしようとしても、「相手がどこの銀行を使っているか分からない」「転職先が分からない」という壁にぶつかることがあります。

弁護士は、弁護士会照会や、裁判所の「財産開示手続」「第三者からの情報取得手続」を活用し、相手の預金口座や勤務先を調査することができます。また、煩雑な申立書の作成や裁判所とのやり取りも全て代行します。

3. 和解交渉による柔軟な解決

強制執行は強力な手段ですが、「相手が仕事を辞めてしまう」などのリスクもあります。

状況によっては、弁護士が間に入り、「滞納分を少し減額する代わりに、一括で支払ってもらう」といった現実的な和解交渉を行うことで、結果的に多くの金額を早期に回収できる場合もあります。

まとめ

離婚条件の合意が破られた場合に備えるためには、以下のポイントが重要です。

  • 口約束は避ける: 必ず文書に残すこと。
  • 債務名義の取得: 公正証書(執行認諾文言付き)、調停調書、判決書、裁判上の和解書など、強制執行力のある形式で合意すること。
  • 不履行時の対応: 泣き寝入りせず、給与や預金の差し押さえ(強制執行)を検討すること。
  • 専門家の活用: 文書の作成段階から弁護士に関与してもらい、将来のリスクを封じる条項を作ること。

離婚条件の不履行は、あなたの生活基盤を揺るがす重大な問題です。「相手を信じたい」という気持ちは大切ですが、法律は「信じた人」ではなく「備えた人」を守る側面があります。

弁護士法人長瀬総合法律事務所では、離婚協議の段階から、「守られる合意」の形成をサポートします。また、すでに不払いで困っている方に対しても、回収に向けた具体的な法的手段をご提案いたします。

「約束が守られないかもしれない」「すでに守られていない」と不安を感じたら、一人で悩まず、まずは当事務所にご相談ください。

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