退職金の扱いと計算方法

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はじめに

長期にわたる婚姻生活を経て「熟年離婚」を考える際、退職金は大きな争点のひとつとなります。退職金は、定年や退職時に支給されるため、実際に離婚時点ではまだ受け取っていない場合が多く、その扱いは他の財産(預貯金や不動産など)よりも複雑です。また、年金や財産分与とも密接に絡んでくるため、熟年離婚において退職金をどう評価・分割するかは、老後の生活を左右する重要な問題となります。

本稿では、熟年離婚で退職金を取り扱う際の基本的な計算方法や分割方法、注意すべき点を中心に解説します。長い婚姻期間が終わりを迎え、これからの人生設計を考えるうえで、退職金をどう扱うかは大切なテーマです。退職金の分割で後悔しない道筋を考えていただければ幸いです。

Q&A

Q1:退職金は必ず財産分与の対象になるのでしょうか?

退職金は、婚姻中に形成された財産として扱われるため、原則として財産分与の対象となります。しかし、婚姻前に働いた期間に相当する退職金は対象外(特有財産)となるのが一般的です。実際には「婚姻期間に応じた部分」が分割の対象です。

Q2:実際にまだ退職していない場合でも、退職金は分割できますか?

できます。見込み退職金として、将来受け取るであろう金額を算出し、離婚時に金銭清算する方法が一般的です。退職金のうち「婚姻期間に対応する部分」を割り出し、配偶者に一定額を支払う形が多いです。

Q3:退職金の計算はどのように行いますか?

公務員や会社員の場合、就業規則退職金規定で定められた退職金額(または見込み額)をベースにします。そのうえで、(婚姻期間/在職期間)×退職金見込額という計算式で、「婚姻期間中に形成された分」を推定するのが一般的です。

Q4:熟年離婚で高額な退職金が期待できる場合、どのように分割すればいいでしょうか?

多くの場合、金銭清算として配偶者に一括または分割で支払う方法が選ばれます。一方、退職金を受け取る前に離婚するケースでは、「退職後に受け取ったら分ける」という合意を公正証書や協議書に明記し、後日支払う形をとることもあります。

Q5:退職金を渡したくない場合、どうすればよいですか?

法的には退職金は財産分与の対象となるため、原則として回避は難しいです。しかし、婚姻前に形成された期間や、夫婦別産制の合意など、個別の事情によっては全額が対象になるわけではありません。弁護士に相談しながら、正当な範囲で財産分与を行う方法を検討すべきでしょう。

解説

退職金の計算方法とポイント

婚姻期間と在職期間の区分

  • 一般的な式:(退職金見込額)×(婚姻期間/在職期間)
  • 婚姻期間とは、法律上の結婚を開始した日(入籍日)から離婚届提出日・離婚成立日まで。
  • 在職期間とは、その会社(または公務員組織)に在職した通算期間。

退職金規定の確認

  • 企業や公務員の場合、就業規則や退職手当規定に基づく計算が基本。
  • 管理職や役員の場合、特別な退職金制度(役員退職慰労金など)があることもあるため、別途確認が必要。

退職金の支給時期と支払い方法

  • 離婚時点でまだ退職していない場合:見込み額で算出し、金銭清算を実施。または「実際に退職したら支払う」と約束し、公正証書化しておく。
  • すでに退職金を受け取っている場合:現金や預金の形で保有しているはずなので、他の財産と合わせて分配。

熟年離婚ならではの注意点

定年退職・早期退職が絡む場合

  • 定年退職近くの離婚で、一方が「早期退職を予定している」など将来の不確定要素がある場合、確定情報が少ないため協議が難航しがち。
  • 事前に会社の人事部公務員の場合は退職手当の見込証明などを取得しておき、推定額を正確に把握。

年金分割との相互作用

  • 同時に年金分割が問題になるため、退職金・年金分割・財産分与・親権や養育費など、包括的に話し合う必要がある。
  • 年金分割によって老後収入が変わる一方、退職金が大量に得られる側が負担すべき部分を調整する例も存在。

配偶者の老後資金確保

  • 長期婚姻後の離婚は、配偶者(特に専業主婦だった側)が老後の経済基盤を失うリスクが高い。
  • 退職金をある程度渡すことで、離婚後すぐに生活が立ち行かない事態を避ける狙いがある一方、受け取る側が賢く資金を運用できるかも課題。

実務上の手続き

協議・調停・裁判での合意形成

  • 夫婦が話し合いで合意できれば、退職金分割割合を離婚協議書や公正証書に明記しておく。
  • 争いが激しい場合は家庭裁判所の調停裁判で退職金の算定と分割を判断してもらう。

書類収集

  • 退職金規定退職手当見込額証明書(公務員の場合)や在職証明書などを準備し、算定の根拠を明確にする。
  • 弁護士が会社や公的機関に照会することも可能。

支払い方法の取り決め

  • 一括払いが困難な場合は、分割払いや退職後の支払いなど、時間をかけて調整する方法を採る。
  • 支払いを確実にするため、公正証書強制執行認諾文言を盛り込むことで、万が一の未払い時でも対処しやすい。

弁護士に相談するメリット

退職金評価の正確なアドバイス

  • 会社の就業規則や公務員の退職手当制度を分析し、妥当な見込額を算出。
  • 必要に応じて人事部や関係機関とのやりとりをサポートし、退職金見込証明などの取得を代行。

交渉や裁判手続きを一括管理

  • 協議や調停が長引くほど高齢である夫婦には大きな負担。弁護士が代理人となって交渉を進めれば時間と精神負担を軽減できる。
  • 書類作成や調停期日の手配も任せられ、結果的に早期解決につながる。

年金分割や他の財産分与との総合調整

  • 退職金だけでなく、年金・預貯金・不動産・株式などを総合的に考慮し、「全体でどのように配分すれば公平か」を提案。
  • 将来の生活設計や医療費・介護費用など、熟年離婚特有の要素も含め、長期的視点でサポート。

離婚後トラブル再燃の予防

  • 離婚協議書や公正証書の文言を緻密に作成し、支払い方法や支払い時期、万が一の不履行時の対処法などを明文化。
  • 「約束と違う」「退職金を隠していた」などの再トラブルを未然に防ぐ。

まとめ

  • 長期婚姻後の熟年離婚では、退職金が大きな財産分与の争点となり、婚姻期間に応じた部分が基本的に分割対象
  • 定年や早期退職、在職中かどうかによって金額が変わるため、就業規則・退職金規定や見込証明を取得し、弁護士と一緒に正しい算定を行うことが重要
  • 支払い方法としては一括払いが多いが、分割払いの合意や退職後に支払う合意、あるいは公正証書化による強制執行力確保も検討
  • 弁護士に依頼すれば、退職金だけでなく年金分割や不動産分配も含めた総合的な財産分与戦略を立案し、熟年離婚で後悔しない道を設計できる

熟年離婚において「退職金」という一時金は、老後生活の資金源としての重要度が非常に高いものです。正確な規定や専門家の知識を活かして、双方が納得できる分割方法を選ぶことで、離婚後の人生を前向きに進められるでしょう。ぜひお早めに弁護士へ相談し、トラブルを最小限に抑えながら公正な退職金分割を実現することをご検討ください。

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