はじめに
離婚時に取り決めた親権や監護権が、後になってどうしても変えざるを得ない状況が生じる場合があります。たとえば、親権を持つ親が育児を放棄している、重病で子どもの世話ができなくなった、あるいは子ども自身が強く希望しているなど、子どもの福祉を考えたときに親権者変更を検討する余地があるのです。そして、親権者が変われば、養育費を支払う側・受け取る側も逆転するなど、金銭面での影響も出てきます。
本稿では、親権者変更と養育費の増減がどのように関連するのかを解説します。具体的な手続きの流れ、変更を認めてもらう要件、そして養育費の金額をどう見直すかなど整理しました。子どもを取り巻く環境が大きく変化した場合に備え、円滑な手続きを目指すポイントを紹介いたします。
Q&A
Q1:離婚時に親権を母親にしたのに、その後父親が「親権を取りたい」と主張できますか?
理論上は可能です。家庭裁判所に「親権者変更」の申し立てを行い、調停・審判で子どもの福祉に照らして判断してもらう流れです。ただし、「変更理由が子どもの利益になる」と認められる必要があり、単なる親の都合だけでは認められません。
Q2:親権が変わると、養育費の支払いはどうなりますか?
もともと養育費を受け取っていた側が親権者だった場合、親権が変われば支払う側と受け取る側が逆転することもあります。具体的には、新たに親権を得る親が子どもを監護するようになれば、従来の養育費の取り決めを白紙にして、新しい養育費の交渉が必要となります。
Q3:親権者が変わっても養育費はそのままにできないのですか?
親権者の変更という大きな事情変更があれば、養育費の支払いも実態に合わせて再検討するのが通常です。子どもの生活費は新たな親権者が負担することになるため、従来の養育費設定が不適切になるケースが大半です。
Q4:親権者変更と養育費の増減を同時に話し合うにはどうすればいいですか?
家庭裁判所に「親権者変更調停」と「養育費変更調停」を同時に申し立てるか、あるいは「親権者変更の調停」の中で養育費もセットで話し合うよう交渉することが多いです。弁護士が一括で手続きを進め、トータルで解決するのが効率的でしょう。
Q5:親権が変わるほどの事情って具体的にどんな事例がありますか?
たとえば、(1)親権者による虐待・ネグレクトが発覚、(2)親権者の死亡や長期入院で子どもの世話ができない、(3)子どもが強く別居親と暮らしたいと希望し、かつ監護環境が整っているなど、子どもの福祉を最優先に裁判所が判断する明確な理由が必要です。
解説
親権者変更のプロセス
事前相談と証拠集め
- DVや虐待、監護放棄など変更理由を裏付ける証拠を集め、子どもがどのような状況に置かれているかを示す。
- 弁護士に相談し、財産状況や子どもの学籍・生活状況を整理。
家庭裁判所への申し立て
- 「親権者変更調停」を申し立て、調停委員が両親から事情を聴く。
- 必要に応じて家庭裁判所調査官が子どもの面談や家庭訪問を行い、報告書を作成する。
調停合意か審判へ
- 調停で合意が得られれば調停調書に記載され確定。
- 不成立の場合、家庭裁判所が審判を下して変更の可否を決定する。
養育費の見直しとの関連
親権が変われば養育費受給者も変わる
- これまで子どもと同居していた親が親権者だったが、親権が別の親に移る場合、養育費の負担が逆転する。
- 新しい親権者が監護費用を負担するため、旧親権者が養育費を払う側へ回る可能性がある。
家庭裁判所で養育費変更も同時に取り扱う
- 親権者変更の調停・審判で、養育費の増減も一括して話し合える。
- 新たな親権者の収入、子どもの学齢、生活状況などを総合考慮し、新たに算定表を参照して決定。
支払い・受取りの逆転例
- 旧親権者が今度は非監護親となり、養育費を支払う立場に変わる。
- 金額や支払方法を公正証書・調停調書などで明記し、不履行時の対処(強制執行)も確保するのが望ましい。
実務上の留意点
子どもの意思確認
- 年齢が一定以上の子どもの場合、どの親と暮らしたいのか本人の意思が重視されるが、親の誘導がないかもチェックされる。
- 弁護士が調査官面談の段階で、子どもの心情を正確に伝えるよう配慮。
監護環境の比較
- 裁判所は親権を変更すると子どもの生活がどう安定するか、親の住居・収入・健康状態・サポート体制を考慮。
- 相手方に問題があっても、変更先の親が育児能力を十分に証明できないと認められない可能性もある。
円満解決を模索
- 親権者が変わっても、元の親権者が子どもに面会交流できるようルールを設けるなど、子どもの福祉を最大化する工夫が求められる。
- 財産分与や再婚問題も絡むと紛糾しやすく、弁護士を通じて冷静な調停・審判手続きを進めることが重要。
弁護士に相談するメリット
親権・養育費を一括して戦略的に交渉
- 親権者変更だけでなく、養育費もセットで見直すことで、公平かつ迅速に条件を決定。
- 弁護士が法的根拠や判例に基づいて交渉をリードし、条件闘争をスムーズに行う。
調停・審判での主張立証サポート
- 監護放棄やDVなど変更理由を証拠で示す必要がある。弁護士が証拠収集や証言準備を代行し、説得力を高める。
- 裁判所調査官との面談に備えたアドバイスも受けられる。
子どもの意見を反映しやすい環境づくり
- 弁護士が家庭裁判所調査官との連携を取り、子どもが安心して意見を言えるよう段取り。
- 親子のコミュニケーションの歪みを防ぎ、子どもの心情を誠実に尊重。
合意書・調停調書の作成と強制執行確保
- 親権者変更後の養育費合意や面会交流合意を公正証書や調停調書で作成し、将来不履行があっても対応できるよう体制を整える。
- 弁護士がトータルにサポートするため、離婚後の追加紛争も対応しやすい。
まとめ
- 親権者変更は、子どもの生活を大きく変える手続きなため、家庭裁判所は「子どもの福祉」を基準に厳格に判断し、親の都合だけでは認められない
- 変更が認められた場合、養育費の支払い・受け取りが逆転するなど金銭面でも影響があるため、新たな取り決めを調停・公正証書などで明確にする必要がある
- 変更理由としては、虐待・監護放棄・親権者の死亡や重病・子どもの強い意思など重大な事情が必要で、弁護士に相談し十分な証拠や論理を用意することが大切
- 弁護士に依頼すれば、親権変更と養育費変更をワンストップで交渉・立証でき、子どもが安全・安定して暮らせる環境を整えるための最適な解決策を得やすい
離婚後に親権者や養育環境が劇的に変わることは子どもに大きなストレスを与えますが、それでもやむを得ない事情があるなら、正当なプロセスで親権者変更を目指す必要があります。弁護士のサポートを受け、適切な証拠と論理で子どもの最善を訴え、同時に養育費の見直しなども一括交渉することで、家族全員がより良い形に落ち着ける可能性を高められます。
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