養育費の計算方法と増減要因:18歳成人改正と大学進学の実務

ホーム » コラム » 財産分与・慰謝料・養育費 » 養育費の計算方法と増減要因:18歳成人改正と大学進学の実務

はじめに:養育費の法的義務と性質

離婚において、未成年の子がいる場合、親権の帰属と並んで最も重要な取り決め事項が「養育費」です。養育費は、子どもが経済的・社会的に自立するまでに必要となる全ての費用(衣食住の費用、教育費、医療費、娯楽費など)を、親権者でない親(非監護親)が分担するものです。

この養育費の支払義務は、単なる道徳的な義務ではなく、強力な法的な義務に基づいています。親の子に対する扶養義務は、自身の生活に余裕がある場合にのみ発生する「生活扶助義務」(例:兄弟間の扶養)とは異なり、自分自身の生活レベルを落としてでも(最低限、自分と同水準の生活を)子どもに保障しなければならない「生活保持義務」であると解されています。この義務は、両親が離婚し、親権者がどちらになろうとも変動するものではありません。

しかし、実務上、「養育費をいくらにすべきか」「いつまで支払うのか」を巡る争いは絶えません。特に2022年4月の民法改正による「18歳成人」の導入は、養育費の終期に関して多くの混乱を生じさせています。

本稿では、裁判所の「養育費算定表」を用いた具体的な計算方法、18歳成人改正の実務への影響、そして大学進学費用の取り扱いといった重要論点について解説します。

Q&A:養育費に関する実務上の主要な疑問

Q1:養育費の金額はどのように計算するのですか?

家庭裁判所の実務では、裁判官が研究を重ねて作成した「養育費算定表」が、標準的な計算ツールとして広く用いられています。これは、①義務者(支払う側)の年収、②権利者(受け取る側)の年収、③子の人数と年齢(0~14歳、15歳以上)の3つの要素をマトリクスに当てはめ、月額の目安を算出するものです。協議、調停、審判のいずれにおいても、この算定表の金額が交渉の出発点となります。

Q2:2022年から18歳で成人になりましたが、養育費の支払いは18歳(高校卒業)までで良くなったのですか?

いいえ、原則として影響しません。

これは非常に重要な点で、多くの誤解が生じている部分です。民法改正で「成年年齢」が18歳に引き下げられましたが、養育費の支払義務は「法律上の”未成年者”」に対してではなく、「経済的に自立していない”未成熟子”」に対して負うものと解されています。

現在の日本では、18歳で高校を卒業しても、多くは大学・専門学校に進学するか、就職しても十分な収入を得て経済的に自立しているとは言えないケースが大多数です。そのため、成人年齢が18歳に引き下げられた後も、家庭裁判所の実務は変わっておらず、従来通り「20歳まで」を養育費の終期とするのが一般的です。

Q3:子どもが大学に進学した場合、養育費は20歳を超えて(22歳まで)もらえますか?

当事者間の「合意」があれば当然可能です。合意がない場合、裁判所の判断となりますが、大学卒業(通常22歳)までの支払義務を認めるケースもあります。

裁判所が考慮する要素は、「親の学歴や収入、地位」「子が大学進学を希望していること」「その家庭環境において大学進学が通常と見なされるか」などです。両親がともに大学を卒業している場合や、一定以上の収入がある家庭では、子が大学に進学することは(離婚がなくても)当然に予定されていた蓋然性が高く、22歳までの支払義務が認められやすい傾向にあります。離婚時の合意書(公正証書など)に、大学進学の可能性を見越して「22歳に達する日の属する年の3月まで」と明記することが、将来の紛争を防ぐために重要です。

Q4:養育費の金額が算定表より高額(または低額)になる「特別事情」とは何ですか?

算定表はあくまで標準的な公立学校に通う家庭をモデルにしています。そのため、算定表の想定を超える特別な費用(特別事情)がある場合、その費用を加算(または減算)して調整します。

  • 増額要因(特別事情)
    子どもが私立学校に通っている場合の高額な学費、重い病気や障害があり高額な医療費・リハビリ費がかかる、合理的な範囲での塾や習い事の費用、など。
  • 減額要因(特別事情)
    義務者(支払う側)がリストラや重病により大幅に収入が減少した、義務者が再婚し、新たな扶養家族(再婚相手の連れ子と養子縁組した場合など)が増えた、など。

Q5:相手が養育費を払わないとき、どのように強制できますか?

養育費の取り決めを、単なる口約束や当事者間の合意書(示談書)で済ませてはいけません。不払いが発生した場合に備え、必ず「強制執行認諾文言付公正証書」または「調停調書」「審判書」といった、法的な強制力(債務名義)を持つ文書で合意する必要があります。

これらの文書があれば、相手が支払いを怠った場合、裁判を起こすことなく、直ちに相手の財産(給与、預貯金など)を差し押さえる「強制執行」の手続きが可能です。特に養育費の場合、一度の手続きで、将来にわたって発生する将来分の養育費についても給与を差し押さえ続けることが可能であり、強力な権利が認められています。

解説:養育費の算定と実務

養育費算定表の基本的な見方と「年収」の定義

養育費算定表は、裁判所のウェブサイトで公開されており、誰でも閲覧可能です。この算定表を用いる上で、実務上最も争いになるのが「年収」の定義です。

(1)給与所得者(サラリーマン、公務員)

算定表の「年収」は、「手取り額」ではありません。源泉徴収票の「支払金額」(税金や社会保険料が引かれる前の総支給額)を用います。

(例)源泉徴収票の「支払金額」が600万円(手取り480万円)の場合、算定表では「600万円」の欄を参照します。

(2)自営業者(個人事業主、経営者)

算定表の「年収」は、確定申告書の「課税される所得金額」をそのまま使うわけではありません。ここが非常に複雑な点です。

裁判所の実務では、自営業者の「総収入」から「実際に支出された経費」を引いたものを基礎収入と考えます。そのため、「課税される所得金額」に、実際には支出を伴わない経費(例:減価償却費、青色申告特別控除)や、事業のためとは言えない家事関連費(接待交際費や交通費の一部)を「足し戻し」て、実質的な年収を算定します。この「足し戻し」の範囲を巡って、交渉は難航することがあります。

養育費の終期:「18歳成人」法改正の正確な影響

Q2で触れた通り、2022年4月の18歳成人(民法改正)は、養育費の終期に原則として影響しません。

(1)「未成年者」と「未成熟子」の区別

  • 成年年齢(民法)
    18歳になれば、親権に服さなくなり、一人で契約(携帯電話、アパート賃貸など)ができるようになります。
  • 扶養義務(養育費)
    これは年齢で一律に切れるものではなく、「経済的に自立するまで(=未成熟子でなくなるまで)」続きます。

18歳で高校を卒業しても、大学や専門学校に進学すれば収入はなく、親の扶養が不可欠です。就職した場合でも、その収入が安定し、社会人として自立した生活を送れるレベルに達していなければ、まだ「未成熟子」であると評価される余地があります。

(2)実務上の取り決め方と戦略

この法改正による混乱を避けるため、離婚時の合意書(公正証書・調停調書)では、養育費の終期を年齢(「〇歳まで」)で定めるのではなく、具体的な期限で明確に記載することが推奨されます。

  • パターンA(標準)
    「養育費として、〇年〇月から、子が20歳に達する日の属する月まで、月額〇万円を支払う。」(※18歳成人後も、20歳まで支払う意思を明確化する)
  • パターンB(大学進学を想定)
    「養育費として、〇年〇月から、子が大学(または裁判所がこれに準ずると認める高等教育機関)を卒業する日の属する月(ただし、22歳に達する日の属する年の3月を限度とする)まで、月額〇万円を支払う。」(※「大学進学時」という条件と「22歳」という上限を明記する)
  • パターンC(双方合意の上)
    「養育費として、〇年〇月から、子が満18歳に達した後の最初の3月31日まで(高校卒業時)、月額〇万円を支払う。」(※双方の合意があれば、高校卒業時とすることも可能です)

パターンB(大学進学)のように具体的に定めておかないと、子どもが20歳になった時点で「20歳になったから」と支払いを打ち切られ、改めて大学の学費(特別費用)を請求するために調停や審判を起こさなければならない、という二度手間と紛争の再燃を招くリスクがあります。

養育費の不払い対策と強制執行

養育費は、その取り決め内容が「絵に描いた餅」にならないよう、不払いに備えた「履行確保」が重要です。

(1)合意文書の「債務名義」化

Q5の通り、合意内容は必ず「強制執行認諾文言付公正証書」または「調停調書・審判書」にしなければなりません。これにより、不払い時に裁判所の許可(判決)なしに、直ちに強制執行が可能となります。

(2)強制執行(差押え)の具体的な流れ

不払いが起きた場合、権利者(受け取る側)は、これらの文書(債務名義)をもって地方裁判所に「債権差押命令」を申し立てます。

  • 給与の差押え
    相手方の勤務先に裁判所から命令が送達され、勤務先は相手方の給与から養育費分を天引きし、直接権利者に支払うことになります。
  • 預貯金の差押え
    相手方が口座を持つ銀行に命令が送達され、口座残高から養育費分が差し押さえられます。

(3)養育費の差押えの特例(民事執行法の改正)

養育費の債権は、子どもの生活を守るという債権であるため、通常の債権よりも保護されています。

  • 差押え可能範囲の優遇
    通常の借金の場合、給与の差押えは手取りの4分の1までしか認められません。しかし、養育費の場合は「手取りの2分の1まで」差し押さえることが可能です。
  • 将来分の差押え(最も強力)
    通常の債権は「既に支払期限が来ているのに支払われていない分」しか差し押さえられません。しかし、養育費の給与差押えは、「まだ支払期限が到来していない将来の分」についても、一度の手続きで、退職または完済まで継続して差し押さえることが可能です。

(4)履行勧告

調停や審判で決まった養育費が支払われない場合、家庭裁判所に「履行勧告」を申し立てる方法もあります。これは、裁判所から義務者に対し「支払うように」と勧告してもらう制度で、強制力はありませんが、裁判所からの連絡という心理的プレッシャーを与える効果が期待できます。

弁護士に相談するメリット

養育費の取り決めは、単に算定表の金額を確認するだけでは不十分です。長期にわたる子どもの将来を守るため、専門的な交渉と文書化が必要です。

  • 正確な年収の算定と特別事情の主張
    相手方が自営業者や経営者で収入が不透明な場合、弁護士が確定申告書を分析し、経費の「足し戻し」計算を行って、適正な年収を主張します。また、私立の学費や医療費といった「特別事情」を法的に構成し、算定表以上の金額を立証します。
  • 将来を見据えた「終期」の戦略的交渉
    「18歳成人」の問題をクリアにし、子どもの大学進学を見据えた「22歳卒業まで」といった有利な終期を、法的根拠に基づき交渉し、合意書に明確に落とし込みます。
  • 不払いリスクへの万全な備え(公正証書化)
    合意内容を、強制執行が可能な「公正証書」または「調停調書」として確実に文書化します。単なる合意書で終わらせず、法的な強制力を担保します。
  • 不払い時の迅速な強制執行手続き
    万が一不払いが起きた場合、弁護士が直ちに代理人として、債権差押命令の申立て(給与差押えなど)を行い、迅速な債権回収を図ります。
  • 総合的な交渉
    養育費の問題を、財産分与や慰謝料、面会交流といった他の離婚条件と組み合わせて交渉します。例えば、「財産分与を譲る代わりに養育費を算定表より増額する」といった柔軟な駆け引きが可能となり、子どもの利益を含めた総合的な解決を目指します。

まとめ

養育費は、裁判所の「算定表」を基本とし、父母それぞれの年収(給与所得者は総支給額、自営業者は経費の足し戻し後の額)と、子の年齢・人数をもとに目安を決定します。

私立学校の学費や高額な医療費といった「特別事情」があれば、算定表の金額に加算されます。

2022年の「18歳成人」改正は、養育費の終期に原則として影響せず、実務上は「20歳まで」が標準です。大学進学を見据える場合は、合意書に「22歳まで」と明記することが重要です。

養育費の不払いに備えるため、合意内容は必ず「強制執行認諾文言付公正証書」または「調停調書」で残すべきです。これにより、不払い時には給与の「将来分」も含めて差し押さえる強制執行が可能となります。

養育費は、子どもの健全な成長と将来を支えるための重要な権利です。算定表の数字だけに捉われず、個別の事情(特別事情や大学進学)を法的に主張し、かつ、その支払いを法的に担保(公正証書化)すること。弁護士のサポートを受けながら、子どもの将来のための万全な取り決めを行うことが大切です。

その他の離婚問題コラムはこちらから


離婚問題について解説した動画を公開中!
離婚問題にお悩みの方はこちらの動画もご参照ください。

リーガルメディアTV|長瀬総合YouTubeチャンネル

初回無料|お問い合わせはお気軽に

keyboard_arrow_up

0298756812 LINEで予約 問い合わせ