はじめに
離婚を考える際、まず頭に浮かぶお金の問題は「慰謝料」や「養育費」ではないでしょうか。しかし、実際の離婚協議において、より金額が大きく、かつトラブルになりやすいのは、長年の婚姻生活で築き上げた財産や負債の処理です。
「定年までまだ時間がある夫の退職金は、財産分与でもらえるのか?」
「ペアローンで購入した自宅は、離婚後どうすればいいのか?」
「相手に借金がある場合、離婚したら自分に返済義務が回ってくるのか?」
「財産分与を受け取ったら、税金がかかるのか?」
これらの疑問に対して、正しい法的知識を持たずに話し合いを進めてしまうと、数百万円単位で損をしてしまったり、離婚後に予期せぬ負債を抱えたりするリスクがあります。また、トラブルを避けるために弁護士への依頼を検討しても、「費用倒れになるのではないか」と不安を感じる方も少なくありません。
本記事では、離婚とお金の問題の中でも特に複雑になりやすい「退職金・年金」「住宅ローン」「借金」「税金」「弁護士費用」の5つのポイントに焦点を当て解説します。離婚後の経済的な安定を確保し、新しい人生をスムーズにスタートさせるために、ぜひ最後までお読みください。
離婚とお金に関するQ&A
Q1. 夫はまだ現役で働いていますが、将来受け取る退職金も財産分与の対象になりますか?
はい、対象になる可能性があります。
退職金は「賃金の後払い」としての性質を持つため、婚姻期間中に対応する部分は夫婦の共有財産とみなされます。すでに退職金が支払われている場合はもちろん、将来支払われる可能性(蓋然性)が高い場合も、分与の対象となります。
ただし、会社の規定や経営状況、定年までの年数などを考慮し、計算方法や支払い時期について争いになることが多いため、慎重な取り決めが必要です。
Q2. 夫婦共有名義で住宅ローンを組んでいますが、家の価値よりもローン残高が多い「オーバーローン」の場合、財産分与はどうなりますか?
原則として、オーバーローンの不動産は「価値のない財産」とみなされ、財産分与の対象から外れます。
財産としての価値がマイナスであるため、分配すべき利益が存在しないと考えられるからです。ただし、この場合でも「誰が家に住み続けるか」「残りのローンを誰が支払うか」「連帯保証人から外れることができるか」といった契約上の問題は残ります。これらは金融機関との交渉が必要となるため、非常に複雑な調整が必要です。
Q3. 夫がクレジットカードで多額の借金を作っていました。離婚したら妻である私も半分返済しなければなりませんか?
借金の理由によって異なります。
もし借金の理由が、生活費(食費、光熱費、子供の教育費など)の不足を補うためであれば、それは「夫婦共同の債務」として財産分与の際に考慮(プラスの財産から差し引くなど)されます。
しかし、ギャンブルや遊興費、個人的な趣味のための浪費で作った借金であれば、それは夫個人の債務であり、妻が負担する必要はありません。
解説:離婚時に見落とし厳禁!5つの重要なお金の話
ここからは、離婚協議で特につまずきやすい5つのテーマについて、具体的な注意点と解決策を解説します。
1. 退職金や年金の分割で気をつけたいポイント
熟年離婚はもちろん、若い夫婦の離婚であっても、将来の資産である退職金や年金は見落とせないポイントです。
退職金の財産分与:計算方法と注意点
退職金は、以下の3つのパターンで考えます。
- すでに退職金を受け取っている場合
預貯金と同様に扱われ、原則として別居時(または離婚時)に残っている金額が分与対象となります。 - 近い将来(数年以内)に退職予定の場合
支給される蓋然性が高いため、「退職見込額」をベースに分与額を計算することが一般的です。 - 定年まで長期間ある場合
将来、会社が倒産したり、本人が自己都合退職したりする可能性があるため、争点になりやすいケースです。実務では、「別居時の時点で自己都合退職したと仮定した場合の退職金額」を算出し、そのうち「婚姻期間に対応する割合(同居期間÷勤続年数)」を分与対象とする方法が多く採用されます。
年金分割:忘れてはいけない手続き
年金分割は、厚生年金や共済年金の「報酬比例部分」を分割する制度です。国民年金(基礎年金)部分は対象外です。
- 合意分割: 夫婦の話し合いで分割割合(最大50%)を決めます。話し合いがまとまらない場合は、調停や審判で決定します。平成19年3月以前の加入期間分も含めて分割できます。
- 3号分割: 平成20年4月以降の期間について、第3号被保険者(専業主婦など)からの請求により、相手方の合意なく自動的に50%分割される制度です。
重要な注意点
年金分割の請求期限は「離婚成立の翌日から2年以内」です。これを過ぎると請求できなくなるため、早めの手続きが必要です。
2. 共有名義の住宅ローンを精算する方法
マイホームは夫婦最大の財産であると同時に、最大の負債(ローン)でもあります。特に「ペアローン」や「連帯債務・連帯保証」になっている場合、離婚時の処理は困難を極めます。
アンダーローン(不動産価値 > ローン残債)の場合
不動産を売却してローンを完済し、手元に残った現金を夫婦で折半するのが公平でトラブルの少ない方法です。
どちらかが住み続ける場合は、住む側が不動産を取得し、出ていく側に「代償金(持ち分の対価)」を支払います。また、出ていく側のローン名義を外す(借り換えや単独債務への変更)手続きが必要ですが、金融機関の審査が必要となります。
オーバーローン(不動産価値 < ローン残債)の場合
売却しても借金が残ってしまう状態です。
- 売却する場合: 自己資金で差額を埋めて完済するか、金融機関の同意を得て「任意売却」を行い、残債務の返済計画を立てます。
- 住み続ける場合: そのまま住み続けながらローンを払い続けるケースが多いですが、名義変更は非常に困難です。「夫名義の家に、離婚した元妻と子が住み続ける」といった場合、夫がローン支払いを滞納すると、家が競売にかけられ、元妻と子は退去を迫られるリスクがあります。
このようなリスクを回避するためには、公正証書で取り決めを行っておく必要があります。
3. クレジットカードや借金の処理方法
「財産分与」では、プラスの財産からマイナスの財産(負債)を差し引いた残額を分配するのが基本です。しかし、すべての借金が対象になるわけではありません。
財産分与で考慮される借金(日常家事債務)
- 住宅ローン
- 自家用車のローン
- 生活費(食費・被服費・医療費など)不足分のキャッシング
- 子供の教育ローン
これらは夫婦共同生活を維持するために生じた債務なので、実質的に夫婦で分担すべきものと考えられます。
財産分与で考慮されない借金(特有財産)
- ギャンブル(パチンコ・競馬など)による借金
- 不当な浪費(身の丈に合わない高級ブランド品の購入など)
- 不貞相手との遊興費
- 独身時代の借金(奨学金など)
これらは個人の責任で処理すべき債務であり、相手方に負担を求めることはできません。相手が「借金があるから財産分与はゼロだ」と主張してきた場合、借金の使い道(使途)を明細書等でチェックする必要があります。
4. 離婚時の税金・節税対策
「離婚でお金をもらうと税金がかかるのでは?」と不安になる方もいますが、原則として財産分与に税金はかかりません。しかし、例外的に課税されるケースがあります。
財産を受け取る側(分与を受ける側)
原則として非課税です。ただし、以下の場合は贈与税がかかる可能性があります。
- 分与された財産額が、婚姻中の協力度合いや事情を考慮しても「多すぎる」場合(過当な部分に課税)。
- 離婚を手段として、贈与税や相続税を免れる目的があると認められた場合(偽装離婚など)。
財産を渡す側(分与をする側)
現金で渡す場合は税金はかかりませんが、不動産や株式などで分与する場合、譲渡所得税がかかることがあります。
これは、「不動産等を時価で譲渡し、その対価として財産分与義務を消滅させた」と税務上みなされるためです。特に、購入時より不動産価値が大きく上がっている場合(含み益がある場合)は注意が必要です。
節税対策
居住用不動産を譲渡する場合、「3,000万円の特別控除」の特例が利用できる可能性があります。ただし、この特例は「配偶者」には適用できないため、離婚成立後(戸籍上の他人になってから)に財産分与として名義変更を行うなどのタイミングが重要になります。
5. 弁護士費用を抑えるポイントとリスク
離婚を弁護士に依頼する場合、費用が発生します。しかし、「費用がかかるから」という理由だけで自分たちだけで解決しようとすることには、大きなリスクが伴います。
弁護士費用の種類
- 相談料: 初回無料や、30分5,000円程度など。
- 着手金: 依頼時に支払う手付金。離婚交渉、調停、裁判と段階ごとに設定されることが一般的です。
- 報酬金: 離婚成立時や、経済的利益(獲得した金額)に応じて支払う成功報酬。
- 実費: 裁判所に納める印紙代、郵便切手代、交通費など。
自己対応のリスクと「費用対効果」
弁護士費用を節約しようと自己交渉を行った結果、以下のような損をしてしまうケースが後を絶ちません。
- 相場よりも著しく低い慰謝料で合意してしまう。
- 本来もらえるはずの退職金や財産分与を見落とす。
- 養育費の取り決めが甘く、数年後に支払いが止まってしまう。
- 不利な条件の公正証書を作成してしまう。
弁護士に依頼することで、適正な金額(場合によっては数百万円アップ)を獲得できれば、弁護士費用を差し引いても手元に残るお金は多くなります。まずは相談時に費用の見積もりを確認することをお勧めします。
弁護士に相談するメリット
ここまで解説した通り、退職金、住宅ローン、借金、税金の問題は、法律知識だけでなく、税務や不動産実務の知識も求められる複雑な分野です。弁護士に相談・依頼することで、以下のようなメリットが得られます。
- 適正な財産の洗い出しと評価
相手が財産を隠している場合でも、弁護士会照会などを利用して調査できる場合があります。また、複雑な退職金の計算や不動産評価を適正に行い、分与額を最大化します。 - 将来のトラブルを予防する合意書の作成
「もし住宅ローンが滞納されたらどうするか」「教育費が将来増えたらどうするか」など、将来のリスクを予測し、法的効力のある離婚協議書や公正証書を作成します。 - 精神的負担の軽減と代理交渉
お金の問題は感情的な対立を生みやすいものです。弁護士が代理人として交渉することで、冷静かつ合理的な話し合いが可能になり、精神的なストレスから解放されます。
まとめ
離婚とお金の問題について、特に注意が必要な5つのポイントを解説しました。
- 退職金・年金: まだ受け取っていない将来の退職金も、計算次第で分与対象になります。年金分割は2年以内に手続きが必要です。
- 住宅ローン: オーバーローンかアンダーローンかで対応が異なります。銀行との交渉や契約内容の確認が必要です。
- 借金: 生活費のための借金は分担しますが、浪費による借金は分担不要です。使途の立証が鍵となります。
- 税金: 不動産分与時の譲渡所得税には注意が必要ですが、タイミング次第で節税特例が使えます。
- 弁護士費用: 目先のコストだけでなく、獲得できる利益や将来のリスク回避を含めた「費用対効果」で判断しましょう。
これらのお金の問題は、離婚後の生活を支える基盤そのものです。「面倒だから」と曖昧にしたまま離婚してしまうと、後から取り返しがつかない事態になりかねません。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、離婚問題、特に財産分与や複雑な金銭トラブルの解決に豊富な実績があります。ご相談者様一人ひとりの状況に合わせて、経済的利益を最大化するための戦略をご提案いたします。
「自分のケースでは退職金をもらえるのか」「住宅ローンをどうするのが一番損をしないか」など、具体的な不安をお持ちの方は、ぜひ一度当事務所にご相談ください。
次のステップ
より具体的で正確なアドバイスを希望される方は、以下の資料をお手元にご用意の上、法律相談をご予約いただくとスムーズです。
- 預貯金通帳、借金の明細書など
- ご自身と配偶者の給与明細・源泉徴収票
- 退職金規定(就業規則)のコピー
- 住宅ローンの償還予定表(残高がわかるもの)
- 不動産の登記簿謄本や固定資産税評価証明書
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