はじめに
離婚に際して、慰謝料や財産分与としてまとまったお金や不動産が動くことになります。このとき、多くの方が心配されるのが「税金」の問題です。
「高額な財産をもらうと、贈与税がかかるのではないか?」
「夫名義の家を妻名義に変えるとき、税金は発生するのか?」
結論から申し上げますと、離婚に伴う金銭のやり取りは、原則として非課税です。しかし、不動産(家や土地)の分与においては、手続きのタイミングや方法を誤ると、予期せぬ高額な税金(譲渡所得税など)が課されるリスクがあります。特に「家を渡す側」に税金がかかるケースがあることは、あまり知られていません。
本記事では、離婚時の税金について、「かかる税金・かからない税金」の線引きと、知っておくべき「節税のポイント」を解説します。
離婚と税金に関するQ&A
Q1. 財産分与や慰謝料としてお金を受け取りました。贈与税の申告は必要ですか?
原則として必要ありません(非課税です)。
離婚による財産分与は、「夫婦共有財産の精算」や「生活保障」としての性格を持つため、税務上は「贈与(プレゼント)」とはみなされません。慰謝料も同様に非課税です。
ただし、受け取った額が婚姻期間や資産状況に照らして「社会通念上、あまりにも多すぎる」場合、その過剰な部分について贈与税がかかる可能性があります。また、税金を逃れるための「偽装離婚」と判断された場合も課税対象となります。
Q2. 夫名義の自宅を財産分与でもらうことになりました。私に税金はかかりますか?
「不動産取得税」は原則かかりませんが、「登録免許税」はかかります。
財産分与として不動産を取得した場合、地方税である「不動産取得税」は原則としてかかりません(※慰謝料の代わりとして不動産をもらった場合はかかる可能性があります)。
一方で、名義変更(所有権移転登記)をするための「登録免許税(固定資産税評価額の2%)」は必要となります。この費用をどちらが負担するかは、夫婦間の話し合いで決めるのが一般的です。
Q3. 離婚後、子供を引き取って育てていきます。税金の優遇措置はありますか?
はい、「ひとり親控除」や「寡婦(寡夫)控除」が利用できます。
離婚してシングルマザー(またはファザー)になった場合、一定の所得要件などを満たせば、所得税や住民税が安くなる控除を受けられます。年末調整や確定申告の際に申請が必要ですので、忘れないようにしましょう。
解説:離婚で注意すべき「3つの税金」と節税のポイント
離婚とお金の問題で特に注意が必要なのは、現金よりも「不動産」が動くケースです。ここでは、「もらう側」「渡す側」それぞれの視点で解説します。
1. 【もらう側】贈与税がかかる「例外」を知る
前述の通り、財産分与は原則非課税ですが、以下のケースでは税務署から指摘を受けるリスクがあります。
- 過大な財産分与: 夫婦の資産総額が1,000万円しかないのに、1億円の不動産を分与したような場合。
- 離婚前の贈与: 離婚が成立する「前」に、単に名義変更をした場合。これは夫婦間贈与とみなされ、年間110万円を超える分には贈与税がかかる可能性があります(※婚姻期間20年以上の配偶者控除の特例を除く)。
- 対策: 財産分与としての名義変更は、「離婚届を提出した後」に行うようにしましょう。
2. 【渡す側】要注意!「譲渡所得税」の落とし穴
ここが最も誤解が多いポイントです。不動産を財産分与として相手に渡す際、「渡す側(分与者)」に税金がかかることがあります。これを「譲渡所得税」といいます。
- なぜ税金がかかるのか?
税務上、財産分与で不動産を渡すことは、「不動産を時価で売却し、その利益で財産分与の支払い義務を果たした」と解釈されます。
そのため、「家を購入した時の価格」よりも「分与時の時価(今の価値)」が値上がりしている場合、その値上がり益(譲渡益)に対して税金がかかるのです。 - 具体例:
- 購入時:3,000万円
- 現在(分与時):5,000万円
- 差額の2,000万円が「利益」とみなされ、約20%(約400万円)の税金が発生する可能性があります。
(※減価償却費等は考慮せず簡略化しています)
3. 【節税対策】「3,000万円特別控除」を使うタイミング
居住用不動産(マイホーム)を売却・譲渡した場合、利益から最大3,000万円までを差し引ける「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」という制度があります。
しかし、この特例には「配偶者への譲渡には適用できない」という重要なルールがあります。
- 離婚前に名義変更: 配偶者への譲渡となるため、特例は使えません。
- 離婚後に名義変更: 戸籍上の他人への譲渡となるため、要件を満たせば特例が使えます。
つまり、不動産を分与する場合、「離婚届を出して他人になってから名義変更の手続きをする」ことが、数百万円規模の節税につながる決定的なポイントとなります。
4. 離婚後の生活を支える「扶養控除」と社会保険
離婚後の税金対策として、公的な控除制度をフル活用することも大切です。
- ひとり親控除: 婚姻歴や性別にかかわらず、事実婚状態になく、生計を一にする子(総所得金額等48万円以下)がおり、本人の合計所得金額が500万円以下の場合、35万円の所得控除が受けられます。
- 寡婦控除: ひとり親控除に該当しない場合でも、要件を満たす女性には27万円の所得控除があります。
また、離婚によって配偶者の扶養から外れる場合は、国民健康保険や国民年金への切り替え手続きが必要です。保険料の減免制度もありますので、役所の窓口で相談することをお勧めします。
弁護士に相談するメリット
税金の問題は、一歩間違えると大きな損失につながります。弁護士に相談することで、以下のメリットが得られます。
- 最適な「タイミング」の助言
不動産の名義変更を「いつ」行うべきか、離婚届の提出時期と合わせて戦略的にアドバイスします。 - 税理士との連携
具体的な税額計算や申告が必要な場合、当事務所が連携する税理士と協力し、法務と税務の両面からサポートします。 - 適正な財産分与額の算出
将来かかる税金や手数料を考慮に入れた上で、実質的に公平になるような財産分与の条件を交渉します。
まとめ
離婚時の税金について、重要なポイントを整理します。
- 基本: 財産分与・慰謝料には原則として税金(贈与税)はかからない。
- 注意: 不動産を渡す側には、値上がり益があると「譲渡所得税」がかかるリスクがある。
- 対策: マイホームの分与は、節税特例(3,000万円控除)を使うために「離婚成立後」に名義変更を行う。
- 事後: 離婚後は「ひとり親控除」などの申告を忘れずに行う。
「税金のことはよくわからないから」と曖昧なまま手続きを進めてしまうと、後日、税務署から通知が届いて青ざめることになりかねません。
特に不動産をお持ちのご夫婦は、財産分与の取り決めをする前に、一度専門家のアドバイスを受けることをお勧めします。
弁護士法人長瀬総合法律事務所では、離婚問題に伴う財産分与についてサポートが可能です。損をしない離婚手続きのために、ぜひ当事務所にご相談ください。
次のステップ
ご相談の際は、以下の資料をご用意いただくと、より具体的なアドバイスが可能です。
- 源泉徴収票
- 不動産の購入時の契約書(購入価格がわかるもの)
- 現在の不動産の査定書または固定資産税評価証明書
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