はじめに
ドメスティック・バイオレンス(DV)の加害者は、被害者からの離婚の申し出を断固として拒絶し、暴力や脅迫によって支配を強めようとする傾向があります。勇気を振り絞って「離婚したい」と告げた被害者に対し、「離婚するなら殺す」「家族に危害を加える」などと威圧し、あるいは執拗につきまとうケースも後を絶ちません。
このような状況下では、被害者は「離婚を切り出せば命が危ない」と恐怖し、現状から逃げ出せないまま耐え続けてしまうことが少なくありません。
しかし、法的な観点から申し上げれば、加害者がどれほど離婚を拒否しようとも、DVの事実が認められれば離婚が成立する可能性は極めて高いと言えます。
本稿では、離婚に応じないDV加害者への対処法を中心に解説します。2024年4月に施行された改正DV防止法による保護命令の拡充など、最新の法制度も踏まえ、安全を確保しながら離婚を成立させるための具体的な手順をご紹介します。
Q&A
Q1:DV加害者が「絶対に離婚しない」と言っている場合でも、離婚は強制できるのでしょうか?
可能です。離婚の方法は当事者の話し合い(協議)だけではありません。家庭裁判所での調停や裁判において、配偶者からの暴力(身体的・精神的DVを含む)が「婚姻を継続し難い重大な事由」と認定されれば、相手方の同意がなくとも判決によって離婚を成立させることができます。
Q2:別居したいのですが、加害者の報復が怖くて家を出られません。安全を確保する方法はありますか?
まずは身の安全が最優先です。警察や配偶者暴力相談支援センターへ相談し、一時保護シェルターや親族宅への避難を検討してください。また、裁判所に「保護命令」を申し立てることで、加害者の接近や電話連絡等を法的に禁止することが可能です。接近禁止命令や退去命令が発令されれば、警察とも連携して安全を確保しつつ離婚手続きを進められます。
Q3:相手が「自分は家を出ない」と主張しています。被害者である私が出て行くしかないのでしょうか?
基本的には被害者が避難する方が、物理的な安全確保は容易です。しかし、事情により転居が困難な場合は、保護命令の一種である「退去命令」を申し立てる選択肢があります。これが認められれば、一定期間、加害者を住居から退去させ、その間の接近を禁止させることができます。
Q4:相手が話し合いに応じない場合、すぐに離婚裁判を起こすべきですか?
日本の法制度では「調停前置主義」が採用されており、原則として訴訟の前に離婚調停を経る必要があります。相手方が調停を欠席したり、話し合いにならない場合でも、調停不成立の手続きを経ることで、速やかに離婚裁判(訴訟)へ移行することが可能です。安全のため、弁護士を代理人に立てて直接接触を避けることを推奨します。
Q5:離婚成立後もストーカーのようにつきまとわれないか不安です。
離婚後であってもストーカー規制法やDV防止法による保護が可能です。離婚成立後も加害者の執着が続く場合は、警察への被害届の提出や、新たな保護命令の申立等の法的措置を講じます。また、住民基本台帳の閲覧制限措置(DV等支援措置)を利用し、新住所を知られないようにする対策も必須です。
解説
離婚を阻むDV加害者の心理と特徴
支配欲と所有意識
DV加害者は配偶者を「対等なパートナー」ではなく「自分の所有物」と認識している傾向があります。「離婚=自分の所有物を奪われる」と捉えるため、理不尽な理由で離婚を拒否します。
サイクルの存在(ハネムーン期と爆発期)
暴力を振るった後に泣いて謝罪し、優しくなる「ハネムーン期」と、些細なことで暴力を振るう「爆発期」を繰り返します。被害者は「いつか変わってくれるかもしれない」という期待と恐怖の間で判断力を奪われ、離婚の決断を鈍らされてしまいます。
外面の良さと被害者の孤立化
加害者は社会的地位が高かったり、周囲には「良き夫・妻」として振る舞うことが多くあります。「妻(夫)が精神的に不安定だ」などと吹聴し、被害者を孤立させる巧妙さも特徴の一つです。
安全に離婚手続きを進めるステップ
- 物理的な安全確保と証拠の保全
加害者の同意を得ようとせず、まずは別居を強行することが第一歩です。この際、医師の診断書、怪我の写真、暴言の録音、破壊された家具の写真など、DVの証拠を可能な限り収集・保全します。 - 保護命令の活用(改正法への対応)
2024年の改正DV防止法施行により、身体的暴力だけでなく、精神的な自由を著しく害する脅迫(「殺す」などの言葉による暴力)についても保護命令の対象となりました。また、接近禁止命令違反の罰則も厳格化されています。これらを活用し、加害者を法的に遠ざけます。 - 弁護士を介した調停申立
被害者が直接交渉することは危険です。弁護士を代理人に立て、家庭裁判所に離婚調停を申し立てます。裁判所内でも鉢合わせしないよう配慮を求めることが可能です。
離婚裁判による解決
調停が不成立となった場合、離婚訴訟を提起します。収集した証拠に基づきDV事実を立証し、判決による離婚、慰謝料、財産分与を勝ち取ります。
離婚後の生活を守るために
住民票の閲覧制限(DV等支援措置)
役所に「DV等支援措置」を申請することで、加害者が住民票や戸籍の附票を取得し、被害者の新住所を特定することを防ぎます。
学校や職場との連携
子どもの学校や自身の職場に対し、事情を説明して加害者の来訪に対応しないよう協力を求めます。情報の漏洩を防ぐための根回しが重要です。
弁護士に相談するメリット
- 迅速な保護命令の取得と安全確保
弁護士は、証拠の選別から申立書の作成、裁判官との面接までを迅速に行います。特に保護命令はスピードが命であり、専門家の介入により発令までの時間を短縮し、直ちに身の安全を図ることができます。 - 加害者との直接交渉の遮断
弁護士が代理人となることで、加害者からの連絡はすべて弁護士宛となります。被害者は加害者の威圧的な言動に直接晒されることがなくなり、精神的な平穏を取り戻しながら生活再建に専念できます。 - 「逃げ得」を許さない解決
DV事案では、加害者が財産を隠したり、慰謝料の支払いを拒むケースがあります。弁護士は法的手続きを通じて財産の開示を求め、DV慰謝料を含めた正当な条件での離婚成立を目指します。また、将来的な養育費の不払いリスクに備えた公正証書の作成や、履行確保の手続きも見据えて交渉します。
まとめ
DV加害者が強硬に離婚を拒否しても、法は被害者の味方です。
適切な証拠を揃え、法的手続き(調停・訴訟)を踏めば、加害者の同意なく離婚を成立させることは可能です。
・まずは物理的に離れること(別居・シェルター)を優先してください。
・改正DV防止法による保護命令など、あなたを守る強力な武器が存在します。
・加害者の「離婚しない」という言葉に縛られる必要はありません。
恐怖で動けなくなっている時こそ、弁護士にご相談ください。私たちは、あなたの安全を確保し、新しい人生への一歩を踏み出すための盾となり、矛となります。法律の力で、DVという支配から解放される道は開けます。
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