W不倫とは
不倫とは、既婚者と第三者が不貞関係を持つことをいいます。
そして、中には、既婚者同士が配偶者以外と不貞関係を持ってしまうこともあります。
本稿では、このように、不貞関係に及んだ2人がどちらも既婚者である場合を「W不倫」と呼ぶこととします。
W不倫となった場合、独身の第三者と不貞行為に及んだ場合の不倫とは異なる特徴があります。
本稿では、W不倫となった場合の留意点についてご説明します。
慰謝料請求権者は誰か
まず、W不倫となった場合、慰謝料請求権者は誰なのかという問題があります。
独身の第三者が不貞相手だった場合、不貞をされた側が慰謝料請求権者であることはイメージしやすいと思います。
一方、W不倫の場合、例えば妻Aは、B・Cとの関係では被害者ですが、Dからすれば、Bの妻であり、甲家を一体としてみればBと同じ側に属する者ということになります。
このようなW不倫の場合、 Aだけでなく、Dも慰謝料請求権者ということになります。
但し、AはBとCに対して慰謝料が請求できる一方、DはBとCに対して慰謝料が請求できることになります。
このように、W不倫の場合には、慰謝料請求権者(被害者)が1名にとどまらず、2名発生することになる上、被害者が他方の被害者との関係では、加害者と一体のように見える立場にあるという特徴があります。
慰謝料請求のパターン
このようなW不倫の特徴を踏まえた上で、慰謝料請求をする場合には以下の3つのパターンが考えられます(以下ではAが慰謝料請求をする場合を念頭に置いて整理しています)。
1 Bと離婚した上で、BとCの2名に慰謝料を請求する
AがBと離婚した上で、BとCの2名に慰謝料を請求することは、BとCに共同不法行為責任が成立することから可能です(民法719条)。
そして、AはBと離婚していることから、もはやBとは甲家として一体ともみられないことから、DがBに対して不貞行為に対する慰謝料請求をしてきたとしても、関係がないといえます。
2 Bと離婚した上で、C1名にだけ慰謝料を請求する
AがBと離婚した上で、C1名にだけ慰謝料を請求することは可能です。
但し、AはBと離婚していることから、もはやBとは身分上も家計上も一体ではない以上、Bに対して慰謝料請求を除外する理由は通常は考えにくいといえます。
このように、Bに対する慰謝料のみを除外した場合には、Bとの離婚時の財産関係の精算の際に考慮したのかどうか、またかかる事情がCに対する慰謝料の金額にも考慮されるかどうかが問題となり得ます。
3 Bと離婚せずに、C1名にだけ慰謝料を請求する
AがBと離婚せずに、C1名にだけ慰謝料を請求することも考えられます。
AがBとの離婚を希望しないものの、不貞行為によって強い精神的苦痛を受けた場合には、不貞相手であるCに対してだけ慰謝料を請求するということはもっともと言えます。
但し、この選択をした場合、Cの夫であるDも、Bによる不貞行為の被害者であるため、Bに対して慰謝料を請求してくることが考えられます。
DがBに対して慰謝料を請求してきた場合、直接的にはBだけが慰謝料支払義務を負うことになるとはいえ、AとBは離婚していない以上、甲家としては家計が共通しているために、間接的にAが経済的負担を負うことになります。
このように、AがCに対して慰謝料請求をする一方、DもBに対して慰謝料請求をすることになれば、結果として甲家と乙家の間で慰謝料が移動するだけであり、実益は乏しいことになる可能性があります。
なお、BとCのいずれが主導して不貞行為に及んだのかによっても慰謝料額が左右されるため、甲家と乙家の負担が全く同じとはならないこともあり得ます。
慰謝料請求はすべきなのか?
このように、W不倫における慰謝料請求のパターンを分析すれば、慰謝料請求をすべきかどうかについては、以下のように整理できます。
1 AがBと離婚する場合
AがBと離婚する決意が固まっているのであれば、Cに対して慰謝料を請求した結果、DがBに対して慰謝料を請求したとしても、もはやBとは家計も別になる以上、Aにとっても何ら不利になることはありません。
したがって、Bと離婚する前提であれば、AはBとCに対して慰謝料を請求すべきであるといえます。
2 AがBと離婚しない場合
一方、AがBと離婚せず、婚姻関係を修復する考えがある場合には、Cへの慰謝料請求は慎重に検討する必要があります。
AがCに対して慰謝料を請求した結果、DがBに対して慰謝料を請求してくれば、結局Bの負担が間接的にAにも生じてくることになり、慰謝料を請求しても経済的なメリットは乏しいことになります。
また、DからBに対する慰謝料請求を受けた結果、AとBとの婚姻関係もギクシャクしてくる可能性があります。
したがって、AがBと離婚しない場合には、Cに対して慰謝料請求をするかどうかは、経済的、精神的負担にかんがみて妥当といえるかどうかをよく検討するべきといえます。
弁護士への相談・依頼上の留意点
なお、W不倫の場合、不貞相手に対する慰謝料請求をするためとはいえ、ご夫婦が一緒に当事務所へ相談にお越しになることはお控えください。
不貞行為に及んだ他方配偶者が反省し、離婚せずにやり直すことにしたとしても、将来的には翻意し、やはり離婚することになるような場合には、ご夫婦の利益が相反することになります。
したがいまして、ご相談をご希望の際には、どちらかお一人でお越しいただくようお願いいたします。