はじめに
不倫・不貞相手に対する慰謝料請求をするにあたって、相手方が不倫・不貞行為を認めてくれればよいのですが、争う姿勢を示してきたときには、不倫・不貞行為に基づく不法行為責任が成立することを立証する必要があります。
不倫・不貞相手に対する慰謝料請求における主な争点を整理しました。
争点① 不貞行為の有無
争点② 既に婚姻関係は破綻していた 争点③ 既婚者(不倫・不貞)とは知らなかった 争点④ 消滅時効 |
争点① 不貞行為に該当するか
第1の争点は、そもそも不貞行為に該当するかどうか、という問題です。
この点、「不貞行為」とは具体的にどのような行為を指すのかを確認する必要があります。
この点、「不貞慰謝料請求事件に関する実務上の諸問題」判例タイムズNo1278・45頁以下によれば、「不貞行為」とは、以下の3つであると整理しています。
① 性交又は性交類似行為
② 同棲 ③ 上記の他、一方配偶者の立場に置かれた通常人の立場を基準として、一方配偶者・他方配偶者の婚姻を破綻に至らせる蓋然性のある異性との交流・接触 |
このように、慰謝料請求原因となる「不貞」は、性交に限定されず、それよりも広い概念であるということができます。
肉体関係を持ったことは不貞行為(上記①)に該当することは明らかですが、肉体関係を有するまでに至らない場合であっても、「不貞行為」に該当することがありうるといえます。
争点①の詳細については、「争点① 不貞行為の有無」をご参照ください。
争点② 婚姻関係が不貞行為当時既に破綻していたかどうか
第2の争点は、婚姻関係が不貞行為当時既に破綻していたかどうかという問題です。
他方配偶者が第三者と不貞に及んだとしても、婚姻関係破綻後に不貞に及んだ場合には、婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないことから、不法行為が成立しないという抗弁があります(最三小判平8.3.26)。
実務では、不貞に対する慰謝料を請求する場合、この婚姻関係破綻の抗弁が被告側から主張されることが珍しくありません。
そこで、具体的にどのような場合に婚姻関係が破綻していたと評価できるかが問題となりますが、裁判例によって判断はまちまちであり、統一的な基準を見出すことは困難といえます。
したがって、個別の事案において、婚姻生活の状況等、丁寧に多くの事情を確認し、有利な主張を展開していく必要があります。
なお、二宮周平・判タ1060号112頁は、同居が継続していれば破綻とはいえないとしていることも参考となります。
争点②の詳細については、「争点② 既に婚姻関係は破綻していた」をご参照ください。
争点③ 婚姻関係が不貞行為当時破綻していると信じていたかどうか
第3の争点は、婚姻関係が不貞行為当時破綻していると信じていたかどうかという問題です。
不倫・不貞行為に及んだ相手方に対する慰謝料請求の法的根拠は不法行為責任にありますが(民法709条、710条)、不法行為責任が成立するためには、加害行為者に故意又は過失があることが必要です。
言い換えれば、婚姻関係が不貞行為当時破綻していると信じていたのであれば、故意又は過失がなく、不法行為責任が成立しないことになります。
すなわち、前記最三小判平8.3.26に基づき、婚姻関係が不貞当時すでに破綻していると過失なく誤信した場合には不法行為が成立しないということです。
この点、不貞に及んだ第三者としては、他方配偶者が既婚者である以上、安易に不貞関係に入らないように注意すべきであり、無過失と認めるためには、婚姻関係が破綻しているとの他方配偶者の言葉を信用しただけでは足りず、他方配偶者の言葉を裏付ける根拠があることが必要であるとされています(判例タイムズNo1278・53頁)。
争点③の詳細については、「争点③ 既婚者(不倫・不貞)とは知らなかった」をご参照ください。
争点④ 消滅時効
第4の争点は、不貞行為に対する消滅時効が完成しているかどうかという問題です。
不法行為責任は、「損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する」(民法724条)と規定されています。
したがって、不貞行為を知ってから3年以上経過した後に慰謝料請求をする場合には、消滅時効が完成していることになります。
もっとも、仮に不貞行為を行われたことが3年以上前に発覚し、消滅時効が完成したとしても、不貞行為が原因で離婚することになった場合、離婚に伴う精神的苦痛に対する慰謝料は別に発生することになるため、離婚に伴う慰謝料については認められることになります。
争点④の詳細については、「争点④ 消滅時効」をご参照ください。
最後に
以上が不倫・不貞相手に対する慰謝料請求の争点となります。
相手方が慰謝料請求の有無自体を争ってきた場合には、これらの争点に関して主張・立証を行っていくことになります。
慰謝料請求をする側としては、事前にこれらの争点を解決できるだけの証拠を収集しておく必要があります。
具体的な主張・立証にあたり不安がある方は、お気軽にご相談ください。